#17 ここで
――場所は、デヴィッドの屋敷。
あれから何時間か過ぎ、辺りは段々と夜が明けてきた。すると、デヴィッドが目を覚ました。
「んん…?…これは、どうなっているんだ…」
マークスは黙っていた。
「……!すまないが、この手足の綱を解いてくれないか」
デヴィッドが話すと、マークスは無言のまま綱を解いた。デヴィッドはマークスの顔を見つめる。
「…お前だろ?六年も私の屋敷を荒らしていたのは」
マークスは驚いた。
(やっぱり、バレてたのか…)
そう思った瞬間、デヴィッドはマークスに向かって頭を下げた。
「申し訳なかった…!」
デヴィッドがそう言って頭を下げると、マークスは突然の発言に戸惑いを隠せないでいた。
「えっ…!?」
マークスはただただ驚いていたーー。
「…な、何で、おっさんが謝るんだよ…」
するとデヴィッドは顔を上げた。
「私は、お前が六年前から夜中に家に出入りして盗みをしていたことは分かっていた。だが、理由は勿論分かっている。お前達のような貧しい者達が生きていく為には、仕方のないことだったのだろう。…私だってそんなことは分かっている…!」
マークスは、デヴィッドの目を見ながら口を閉じて黙っていた。
「私は八年前からずっと考えていた。『私にできることは何か。それは、貧しく苦しい生活日々を送っている人々にできるだけの支援をすることだ』とな。だから私は、実際に行動に移そうとした…。しかし、昔馴染みの貴族家に脅されていた…。『貧民に無駄なことをするな』と…」
「…そ、そんな…」
マークスは、デヴィッドがそんなことを考えていたとは信じられなかった。
「この街は何故か金持ちは誰も助けようとしなかった。手を差し伸べようとしなかった。…私は前からおかしいと思っていた。何故そのような風習ができてしまったのか…、こんなのは絶対におかしいと…!だが、自分が何をされるのか怖くて、…行動に移せなかった…!そんな時に夜中にお前が家に忍びこんで来て、食料や薬を奪っていくのを見た。その瞬間、私は思った。『これほどまでに人々は苦しんでいるのだ』と。だから、せめて…このまま知らない振りを続けようと思っていたんだ…!」
デヴィッドは体を震わせながら、頭を下げ、涙を流していた。
「…何もできなくて…、何もしてあげられなくて…、すまなかった…!」
――マークスは涙が溢れ出すのを感じていた。
「……な、なんで…、…なんでなんだよ…、悪いのは俺なのに…、なんでおっさんが謝るんだよ……!?…なぁ!?…なんでだよ…!?」
デヴィッドは、ずっと下を向いたまま、「すまない…すまない…」と言い続け、それを聞いていたマークスは、溢れる涙を堪えようと必死に手で顔を覆っていた。
――そして、二人の思いがぶつかり合ったまま、ただただ時間が過ぎていった。
そして、マークスは感じていた。――自分は今まで、一体何をしてきたのだろう…と。
◇
「エイトお兄ちゃん!カリーナお姉ちゃん!起きて!」
エイトとカリーナは、アニーとナンシーの声を聞き目を覚ました。
まだ早朝で、起きるにはまだ早い時間帯だった。
「…んん、どうしたの…?」
カリーナが階段を降りて下に向かうと、ハリーが焦りを露わにしていた。
「お兄ちゃんが…、マークスお兄ちゃんが…、いないんだ…!」
「えっ!」
エイトとカリーナは急いで家を出て、二手に分かれて街を走り回った。
(まさかとは思っていたけど…、やはり本当だったのか…!?)
エイトは無我夢中で走り回った。
(マークスが悪事を犯すわけがない。昨日はあんなに楽しそうにしていた、あの優しいマークスが…。ダメだ、マークス!お願いだから早まらないでくれ…!)
エイトはそう心の中で思っていた。そして、繁華街へ向かうと、まだ人は全くいなかった。
マークスは何処へ消えたのか。
その時、エイトはある人物を思い浮かべた。
(そうだ…!マーティンなら、何か知っているかもしれない…!)
そう思っていると、向こうからカリーナがエイトの元に走って来た。
「…エイト君!どう!?いた!?」
彼女は息を切らしながら下を向いた。
「いや、いなかった。そっちは?」
「…こっちもいなかった。ベイカーさんの家にもいったけど、いなかった…」
カリーナは、「もう…夜中にどこに行ったのよ…!」と言ってその場に崩れ落ちる。
エイトも今にも膝をつきそうだった。
もしかしたら、何か悪い事件に巻き込まれた可能性もあるのではないかと思っていた。
「とにかく、一旦家に戻ろう。ハリー達も待ってる。あともう少ししたらまた探しに行こう」
エイトはカリーナの肩に手を置くと、「そうだね…」と彼女は応えた――。
◇
――場所は、デヴィッドの屋敷前。
そこには多くの戦闘部隊が立っていた。リチャードとフレデリカは、多くの戦闘部隊の目の前に立ち、そして敬礼を行なった。
「これより、第一作戦を実行する!第一部隊は我々と共に港街方面へ、第二部隊はここに残り周辺の警備を、第三部隊は直ちに繁華街周辺の配置につくように!」
リチャードが戦闘部隊に命令を下すと、「ハッ!」という戦闘部隊の声が響いた。
――屋敷の中では、マークスが窓から様子を見ようとしていた。
「…アイツら何をする気だ…!?」
そう言うと、マークスはデヴィッドの方を振り向き、「…おっさん、何か知ってるか…?」と問いかけた。
「……分からん……」
デヴィッドは俯いたまま呟き、黙り込んでしまった。
マークスはそんなデヴィッドの様子を見て、隣に座った。
「…俺、貴族も国も恨んでたんだ…。どうして、俺達がこんな目に遭わなきゃいけないんだって…」
そう言いながらマークスは、「でも…」と呟く。
「おっさんがそんな思いを持っていてくれて、…俺を六年間も庇ってくれて…。…俺、おっさんに謝らなくちゃいけないし、それに、…感謝しなくちゃいけないんだって…、やっと気づいたよ」
マークスがそう話すと、デヴィッドはゆっくりと顔を上げた。デヴィッドもマークスも涙を浮かべていた。
――そしてマークスは、デヴィッドに頭を下げる。
「…今まで…、本当にすみませんでした…!そして、助けていただいて…本当にありがとうございました…!」
そう言って、深々と頭を下げながらマークスは涙を流した。デヴィッドも涙を流しながら、マークスの頭をそっと撫でた――。
◇
――エイトとカリーナがハリー達の元へ戻ると、三人は暗い表情を浮かべていた。
ハリーはエイトの方を向くと、すぐに俯いた。兄はいたかと聞くまでもなく、全てを悟ったのだろう。
「みんな…、お兄ちゃんはいなかった…。だけど、大丈夫だよ。もしかしたら、何か急な用事があって出て行っただけかもしれないし…」
カリーナがそう話すと、アニーは俯きながら言った。
「…でも、お兄ちゃん、前にも夜中に出て行ったことあったけど、必ず朝にはもう家に帰って来てて、ご飯を作ってたよ」
エイトとカリーナはお互いに顔を見合った。やはり、何か事件にでも巻き込まれたのか。
その時、エイトはあの能力を使おうと決めた――。
「…とにかく、もう少ししたら帰って来るかもしれないけど、もし帰って来なかったらまた探しに行こう」
エイトはカリーナ達にそう言った。四人は静かに頷いた――。
だが、あれから何時間も過ぎても、マークスは帰って来なかったため、エイト達はもう一度繁華街へ向かった。
そして真っ先にマーティンを探しに回った。
先程よりも人通りが多くなってきていたが、エイト達は向こうでいつものように新聞売りをしているマーティンの姿を見つけた。
「マーティン!!」
エイトの声に気づいたマーティンは、「おお!」
と手を振った。
「どうかしたか?まだ朝だろ?早いんじゃねぇか?」
マーティンがそう言うとカリーナが、「ねぇ、マークス君何処にいったか知らない?」と聞いた。
「さあ…、分かんねぇけど…、何かあったのか…?」
マーティンがそう話している横でエイトは、ソウルを使って彼の心を読んでいた。
『…バカな奴らだな…!今頃アイツ、デヴィッドの屋敷で痛い目に遭ってるっつーのに…!まさか、アイツがあの屋敷にいると思わねぇんだろうなぁ!』
エイトはマーティンの心の声を聞いて、動揺を隠せず手を震わせていた。
(マーティンは…、嘘をついてる…!)
その時、エイトは人間の裏の顔というものを知った。そしてマーティンが何かを隠していることに気づいた。
――とにかく今は下手にマーティンに気づかれないようにしなければいけない。マークスを助けに行くことに集中しなければ…、僕はそう思った。
「…い、いや、急にマークスがいなくなったんだ。まぁ、とりあえず他の場所を探してみるよ。ありがとう、マーティン」
「ああ…」
エイトは焦りながらそう言って、カリーナ達と共にマーティンの元から離れた――。
――その後、エイトはカリーナに事情を話した。
「…そんな…マーティン君が…」
「マーティンの心がそう言っていたんだ…。とにかくカリーナ、君はハリー達と家で待っててくれ。僕が必ず、マークスを助け出す…!」
エイトがそう話すと、カリーナは不安そうに見つめる。
「一人で大丈夫…?」
カリーナがそう言っていると、その様子を見ていたナンシーが、「エイトお兄ちゃん、何処か行くの?」と問いかけてきた。
「…僕、もう一度、マークスお兄ちゃんを探して来るよ。そして必ず、連れ戻してくるから、待っててくれ」
そうエイトが話すと、ハリーとアニーも不安そうに俯いていた。
すると、ナンシーがエイトの目を見つめながら、その小さな掌で手を握った。
「エイトお兄ちゃん、マークスお兄ちゃんを絶対に見つけて!」
ナンシーの言葉にエイトは背中を押されたような気がした。エイトは優しくナンシーの手を握り返した。
「…うん、必ず、見つけてくるよ」
エイトはそう言って、デヴィッドの屋敷へ向かった――。
◇
エイトがマークスを探しに向かった後、カリーナはハリー達と共に家へ戻った。
だが、カリーナはあることに気がつく。
「…な、何よ、これ…?」
カリーナは扉の前に『XXXV』と書かれた紙が貼られているのを見つけ手に取る。
(この『XXXV』というのは、何を意味しているの…?何故、マークスの家にこの紙が…?)
カリーナは怪しむようにその紙を見つめると、アニーが俯いたまま、「大丈夫かな……、お兄ちゃん」と呟いた。
ハッと気がつき、カリーナは気丈に振る舞った。
「…大丈夫だよ!きっと…大丈夫!マークス君ならきっと無事よ!それにエイト君が……」
カリーナがそう話している途中でハリーが突然、「ゲホッ!ゲホゲホッ!」と咳こみ苦しそうに胸の辺りに手を当てた。
「…ど、どうしたの?大丈夫?」
カリーナがそばに駆け寄ると、ハリーはますます酷く咳こんだ。
「ゲホッ!ゲホッ!ゲホゲホッ!」
「風邪でも引いた?凄く苦しそう……、ちょっとゴメンね…」
カリーナがそう言って、ハリーのおでこに手を触れる。すると、とても熱かったのを感じた。
「アツッ…!凄い熱じゃない!早く、病院で診てもらわないと!」
そう言うと、ハリーは苦しそうにカリーナの腕を掴んだ。
「…む、無理です…、貧民は…、病院に入れないんです……」
「……!ど、どういうこと……!?」
カリーナは驚いた。そして、彼女はこの街の真の現実を知ることになるのだった――。
◇
――リチャードとフレデリカは第一部隊を引き連れ、繁華街を訪れた。
そして、横には黒い布を口に当てた男がいた。
「…では、ショータイムといこうか…!準備は良いかい?」
リチャードは男にそう言うと、男は頷き、そして目を閉じてから腕を上に挙げ両手を合わせた。その次の瞬間、目を見開き両手を大きく叩いた――。
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