#15 友達
――楽しい夜も過ぎ、エイト達一行はマークスの家に向かっていた。
すっかり疲れ切ったナンシーは、マークスの背中で眠ってしまい、アニーは「お兄ちゃん…眠い…」と言って目を擦っていた。
「よし…、もう少しで家に着くからな…」
マークスがそう言って、アニーの手を握る。
一方のエイトとカリーナは、ベイカーとヒルトンに話があると誘いを受けていたのを思い出し、ベイカーの家へ向かおうとしていた。
ただし、マークス達には内緒で来るようにヒルトンに言われていたので、エイトは「ごめん、えっと…僕ら、船の出港日とかを見るのを忘れてたからまた街に行ってくるよ」と咄嗟に思いついたことをマークスに話した。
「えっ?でも今日は暗いからまた明日行けば良いんじゃねぇか?」
彼はそう言ったが、エイトとカリーナは「大丈夫!早めに調べておきたいし、迷惑をかけないようになるべく早く帰るから」と言った。
「そっか…、それじゃあ、気をつけて行けよ」
心配そうにマークスは話していたが、エイトとカリーナは内心では(ごめん…!嘘なんだ…!)と思いながら、「うん!」と言って家を後にした。
「…よし、帰ったらコーヒーでも飲むか?」
マークスがハリーに向かってそう話すと、ハリーは、「…うん…」と答えた。
「…どうした?」
「いや…、さっき僕、エイトさん達にムキになってあんなことを言っちゃった…」
そう俯いて話すハリーに、マークスは静かにそっと微笑み、ハリーの肩に手を置いた。
「…大丈夫だよ。お前の気持ちはちゃんと二人に届いたはずだぜ。それに二人はお前にああいうふうに言ってもらえて嬉しかったと思う」
「…そ、そうかな。…僕、余計なこと言ったんじゃないかな…?」
そう言って俯くハリーを見て、マークスは肩をポンポンと叩いた。
「そんなことねぇよ。お前のさっきの姿を父さんや母さんが見ていたら、きっと喜んでいたと思うぜ。…それに、俺も嬉しかった。俺は、お前のことをほんとに誇りに思う。お前は俺の自慢の弟だよ」
そうマークスが話すと、ハリーは恥ずかしくも嬉しそうに、「あ、ありがとう…」と言って微笑んだ。
そんなハリーや、眠りそうなアニー、背中に乗っかるナンシーを見て、マークスは嬉しそうにこう言った。
「…さ、帰ろうぜ。俺達の家に」
そうして、マークス達は夜空を下、自分達の我が家へ向かった。
◇
――エイトとカリーナは、ベイカーさん達の家に向かう途中、ハリーに言われたことを思い出していた。
『…だから、僕は二人を尊敬しているんです!人として優しい心を持った冒険家である二人を!』
『『何者でもない』なんて、言わないでください!』
ハリーにそう言われたあの後、エイトとカリーナはしばらく黙り込んでしまっていた。
「ねぇ、エイト君。ハリー君に言われたこと、ちょっと嬉しかったよね…」
「うん…」
二人はハリーが自分達を冒険家として見てくれていたことがとても嬉しかった。同時にそのおかげでエイトとカリーナは自分達が今、旅路を歩み始めたのだということを改めて実感することができた。
「…僕ら、頑張らないと…、だね」
「うん。でも、ハリー君の気持ちにも答えなくちゃって思うけど…、中々険しい道にはなるだろうね」
二人はお互いに夜空を見上げた。そして、二人はハリーに叱咤激励された後に、彼が『僕、将来、エイトさん達みたいにいっぱい勉強して、立派な冒険家になって、そしていつか、エイトさん達よりも凄い冒険家になってみせます!』と話していたことも思い出した。
「でも、私達、本当にまだ旅を始めたばっかだけどね」
「アハハ、カリーナ、君の言う通りだよ」
エイトとカリーナは笑い合いながらベイカーさんの家へ向かった。
そして、やがて家が見えてくると、二人はお互いにもう一度顔を見合わせる。
(僕達になんの話があるのだろう…?)
エイトは心の中で、これからどのような話をされるのか不安を感じながら、優しい灯りが漏れ込む家の扉をノックした。
すると中からベイカーが扉を開けて出てきた。
「やぁ、よく来てくれた。夜道は大変だっただろう?」
ベイカーが優しく話す。
「いえ、大丈夫でした。…それで…、話とは…?」
エイトが問いかけるとベイカーは微笑み、「まあ、ここではなんだから、私の行きつけの店で話をするとしよう」と言って、家の外に出てから扉の鍵を閉めた――。
そして、エイトとカリーナはベイカーに連れられ、再び昼間にいた繁華街へ戻ってきた。
これで、エイト達にとっては二度目の繁華街訪問である。
「ベイカーさん、行きつけのお店って…?」
カリーナが問いかけるとベイカーは「フフッ…」と優しく笑った。
エイトはそんなベイカーから伝わってくる優しさを感じ取っていた。二人が最初に出会った時も、ベイカーは優しく接してくれようとしていたことをエイトは知っている。
ソウルの力を使わなくとも、エイトはその人柄の良さが瞬時に伝わってきたような気がしていた。だからこそベイカーが倒れた時、エイトは絶対に助けたいという一心で街へと走っていった。
マークス達やヒルトン、ボールドウィン、アトウッドと出会ってからも、ベイカーが今まで街にどれだけ貢献してきて、どれだけ多くの信頼を得てきたわかったような気がした。
そして、これからどんな話をされるのか、ベイカーがどんな表情を見せるのか、エイトとカリーナは不安を感じていた――。
「ここを通ればもうすぐだ」
二人はベイカーが向く方向へ視線を送ると、そこは路地裏のような通りだった。辺りは灯りも少なく薄暗い道であったが、やがて道が開けてきたところに酒場のような店があるのが見えてくる。
ベイカーはその店の前に立ち止まり、「ここだよ」と言って、二人はその酒場の看板に視線を移した。看板には『カムパネルラ』と書いてある。
そして、ベイカーは酒場の扉を開けると、中から、「いらっしゃい」という男性の声が聞こえてきた。
「やあ、お待たせ」
ベイカーがそう言って店の中へ入り、二人も続いて中に入った。
中へ入ると、エイトとカリーナほどの年齢のウェイトレスが、「いらっしゃいませー。どうぞ、こちらへ」と言った。
店の中はカウンター席が八席あり、席には奥から順に、ボールドウィン、アトウッド、ヒルトン、そしてカミラが座っていた。
「おう、青年と美少女!また、会ったな。そういや、ちゃんとした挨拶はまだだったな。俺は、ニック。ニック・アトウッドだ。よろしくな」
アトウッドが立ち上がって、エイトとカリーナに掌を差し出す。
「よろしくお願いします」
二人がアトウッドと握手を交わすと、ボールドウィンが立ち上がり近づいて来た。
「私は、エリッカ。エリッカ・ボールドウィン。あの時は私も慌てていたけど…、あなた達のおかげで焦らず行動することができたわ。ありがとう」
ボールドウィンがそう話すと、エイトとカリーナは、「いえいえ…」と謙遜した。
「改めて…僕は、エイトです。まだ旅を始めたばかりですが、冒険家を目指しています」
「私は、カリーナです。エイト君と一緒に旅を共にしています」
二人が自己紹介をするとボールドウィンが、「あなた達のことはヒルトン先生から聞いていたわ」と話した。
するとヒルトンは、ウィスキーが入ったグラスを持ちながら、エイトとカリーナに向かって、「今日ここに呼んだには理由がある」と言った。
「まあ、まずはベイカーさんも二人も座りましょ。マスター、ベイカーさんにいつものを。二人はお酒が飲めないから…、二人にはジュースをお願い」
カミラが店のマスターに向かってそう話すと、マスターは静かにグラスを取り、準備をし始めた。
「それじゃあ、二人とも、座って話すとしよう」
ベイカーがそう言うと、エイトとカリーナは恐る恐る席へ座った。
そして、これからどのような話が繰り出されるのか、不安を隠せずにいたのだった――。
◇
――数時間後、場所はマークスの家。
エイトとカリーナはマークス達の家へ帰って来た。
二人はマークスの方を向き、そして見つめ、数時間前に聞いた話を彼に伝えるべきか迷っていた。
「おやすみ、お兄ちゃん」
「あぁ、おやすみ」
ハリーとアニー、ナンシーはベッドに入って眠りについた。エイトとカリーナは迷いながらも話すことをやめて寝ることにした。
「じゃあ、僕らも先に寝るよ」
エイトがマークスに言うと彼は「おう」と返答した。
「マークス君は、まだ寝ないの?」
カリーナがそう話すと、マークスは優しく微笑む。
「俺は片付けを済ませてから寝るよ」
「そっか…」
カリーナが呟くと、「そういえば…」とマークスが切り出した。
「二人とも、この街をいつ出発するのか決めたのか?」
「ああ…、えっと、今日調べたら三日後にカルハンブラ王国行きの船が出るらしいんだ。たしか『ニルヴァーナ号』っていう船だったかな…、それに乗ろうと思ってる」
エイトがマークスに告げると、「そうか…」と呟いた。
「まあ、この街を出発するまでは家に泊まってくれよ。ハリー達も随分、お前らに懐いてるしな」
マークスの言葉を聞いてエイトは、「ありがとう」と言った。
続けて、「おやすみ、マークス君」とカリーナが言って、エイト達は屋根部屋の寝床に上がろうと階段を上った。
すると、マークスが静かに呟いた。
「ありがとな、二人とも」
そう言ってマークスは笑った-――。
一方、二人は屋根部屋に入り、さっきまでベイカー達と酒場で話していたことを思い返していた。
そして、二人は静かにこの街の現状と事の重大さを確認していた。
街に運びる影と思惑、信頼していた人物の裏切り、これから起きるであろう悲劇の予感――。
その全てが街では静かに蠢いているのである。
このままでは、街は最悪な方向へと踏み入れてしまうかもしれない。
「…ねぇ、エイト君。このままマークス君には黙っておこう。友達として、これ以上マークス君を傷つけたくない…」
カリーナがエイトに静かに話す。
「…うん。僕もこの街の現状を見過ごしたくはない。マークスには、幸せになってもらいたい…。だから、…僕らだけで戦おう。…この街を、絶対に救んだ…!」
エイトがそう話すとカリーナも「うん…!」と静かに頷いた。
◇
――エイト、カリーナ、ハリー、アニー、ナンシーが寝静まった後、マークスはベイカーも元気になり、今日の仕事だけでも生活費は十分に貯まり、このまま平和な日々が続けば良いと感じていた。
だが、それだけではダメだということも同時に考えていた。
このままでは生きていけない。
マークスには、ハリーとアニー、ナンシーが大人になるまできちんと成長を見守る義務がある――。
そう思いながら大事な弟と二人の妹の寝顔を見た後、静かに家を出た。
マークスはいつものようにデヴィッドの屋敷へ向かった。
――辺りは真夜中で、暗闇に包まれていた。
六年前から決まって、同じ屋敷を狙うのはマークスにとっても不思議なことのように思えた。
どうして、逆に今まで気づかれなかったのか、疑問に感じていた。
――もしかすると、もう既に犯人が自分であることを気づかれているのではないか、そんな不安も頭をよぎっていた。
だが、それでもマークスはデヴィッドの家へ向かった。食料や薬を手に入れるためにも、そして生きていくためにも、何としてでも、うまく潜入して、奪わなければ…。そう思っていた――。
しかし、マークスはデヴィッドの屋敷に着いた瞬間、驚きを隠せなかった。
屋敷の中は何者かに荒らされた形跡があり、更には誰もいないようだった。マークスは恐る恐る中に入ると、暗闇の中をゆっくりと歩いた。
――すると、突然外への出入り口の扉が閉まってしまった。マークスは焦りながら元の場所へ戻るが、扉は外から鍵がかかっていて開かない。
――そうしているうちに外から声が聞こえてきた。
「どうだい?ねずみ捕りに捕まったような気分は」
男のような声だった。マークスは声を上げる。
「おい!誰だ!開けろ!」
「嫌だよ。だって君は、六年間も人の屋敷を漁り、そして横流ししていた…。これは立派な犯罪だよ?」
男の言葉にマークスは息を呑んだ。
「お前ら…誰だ…!?」
すると、男は静かに答えた。
「私達は、君のその後ろにいる者に協力している者だよ」
マークスは男の言葉に聞き、後ろを振り向いた。
月の光を頼りに目を凝らしてみると、階段には黒い布に包まれたようなものがあった。
マークスは階段の方へ近づき、黒い布を剥がすと、そこにはデヴィッドの姿が見えた。
――そして、男はマークスを嘲笑うかのように告げた。
「君にはしばらくそこにいてもらうよ。何せ、六年間の常習犯をやっと捕まえることができたんだ。君の友達、
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