#12 人として (1)

 ――次の日の朝、エイト達はベイカーの家の元へ向かい、様子を伺いに行った。

 ベイカーの体調は起き上がれるまでに良くなっており、エイト達は安堵した。


「あとは薬を飲んで安静にしていれば大丈夫だろう」


 ヒルトンがそう話すと、マークスは安心したような表情を浮かべた。


「ベイカーさん、良かったです…!」


 すると、ベイカーは笑顔を浮かべた。


「あぁ、ありがとう。…君達が助けてくれたんだな。本当に助かった。ありがとう」

「お爺さん!」


 アニー、ナンシーが思いっきりベイカーに抱きついた。


「お、おぉ、よしよし。ありがとうな」

「あんまりベイカーさんに迷惑かけるなよ」


 マークスがアニー、ナンシーに向かって注意すると、二人は「だってぇ、嬉しいんだもん!」と言って、ベイカーのそばから離れようとしなかった。


「本当に良かった…!ねっ、エイト君」

「うん…!」

「本当にありがとう」


 ベイカーがとても優しく、嬉しそうな表情でエイト達にそう言った。


 そんな時、ベイカーの家の扉を叩く音が聞こえた。マークスが扉を開けると、そこには新聞売りの少年が立っていた。


「マーティン!」

「よっ!ちょっとここら辺を通ったもんでさ。ちょっと寄ってみたんだ。ベイカーさんの体調も気になってたからよ。でも大丈夫そうだな、良かった!」


 ベイカーは「わざわざありがとう。そうだ、新聞を買うよ」と言って、財布から貨幣を出した。


「金は大丈夫ですよ!元気になって、また次ぜひ買ってください。ベイカーさん、あんまり無理しすぎないようにしてくださいよ?あと、何かあったら言ってください」

「悪いね…」


 マーティンは新聞を置いて、家から出ようとした。すると、マークスはマーティンに向かって、「ありがとうな、マーティン」と言った。


「何言ってるんだよ。困った時は協力し合うのが当たり前だろ?それに新聞は大事だ。色んな情報が書いてあるからな。次は元気になって、また買ってもらいたいぜ。じゃ、またな」


 マーティンはそう言って、その場を立ち去った。カリーナはその様子を見て、「ああいう子もいるのね」と言った。


「あぁ、アイツは良いヤツだよ。昔から」


 マークスは嬉しそうに笑顔を浮かべていた。エイトは、人との何気なくも深い繋がりを目にしたと感じていた。

 すると、ベイカーが「さあ、みんなもう大丈夫だから、街に行っといで」と言った。


「ベイカーさん、また何かあったらいつでも言ってください」


 マークスがベイカーに向かってそう話すと微笑んで、「あぁ、ありがとう」と言った。


「そうだ、マークス。お前、二人に街を案内してあげたらどうだ?」


 ヒルトンがそう話すと、マークスは笑顔で「そうだなぁ!二人共、繁華街に行こうぜ!」と話した。


「よーし、ここはマークス君とハリー君、アニーちゃん、ナンシーちゃんにガイドをお任せして、私達は観光を満喫しましょ?」

「うん」


 アニーとナンシーははしゃぎながら、「やったー!お兄ちゃん!お姉ちゃん!私達が案内してあげるね!」と話した。


「よっしゃ、行くぞー!」


 マークスが叫ぶと、それに続いてハリー達も「おぉー!」と叫んだ。


「それじゃあ、ベイカーさん、ヒルトンさん、また後で来ます!」

「ベイカーさん!ヒルトンさん!またねー!」

「またねー!」


 マークス達が扉を開けて外に出て、エイトとカリーナも続いて出ようとした時、ベイカーが「二人共」と言って手招きをした。


「今夜、時間は空いているかね?」

「あっ、はい…。特に用事はないですけど」


 続けてヒルトンが「お前達、二人だけでまたここに来い。マークス達には内緒でな。話したいことがある」と言った。

 エイトとカリーナは、二人が何故自分達だけを今夜呼び出すのか疑問に思いながらお互いに顔を見合わせるも、今夜再びベイカーの家へ来ることを約束した。



 ◇



 ――エイトとカリーナは、マークス達に案内されながら、街の繁華街を観光していた。

 繁華街には、衣料店、パン屋、花屋、小物屋、大衆食堂など様々な店が軒を連ねていた。街には沢山の観光客で賑わっている。

 エイトとカリーナは、あまりの人の多さに呆気に取られていた。


「さすが、アイウォール列島の玄関口…、凄い人の多さ…」


 カリーナは軽くカルチャーショックを受けており、当のエイトも街の様子に驚きつつも興奮を隠しきれない様子でいた。


「…今まで知らなかった……、こんなに人がいて、こんなに活気が溢れた所があったなんて!」

「おっ、良い匂いがするなー。よし、今日は俺達の行きつけの店に行くか」


 マークスはそう言って、ある店の方を指さした。

 ハリーは、「あっ、そうだね!今日はエイトさんとカリーナさんもいるし!」と言って、アニーとナンシーも一緒に「わーい!やったー!」と言ってはしゃいだ。

 そうして、エイト達はその例の店に着くと、マークスは、「おじさん!いつもの六つください!」

と言い、中にいた店主が「あいよ!」と言って、白く二つ折りにされたパンを六つ取り出した。

 エイトとカリーナは不思議そうに中の様子を覗いていると、店主はそばにあるタレが入った大きな鍋から分厚く切られた肉を取り出し、白いパンの間に青菜と共に挟んだ。


「お、おぉ……な、なんだ、あの美味しそうな食べ物は……」


 カリーナはよだれが出そうになるのを我慢していた。そうして分厚い肉が挟まれたパンが六つ出来上がり、店主は、「はい、出来上がったよ!」と言って一人一人に手渡した。


「そういえば…」


 店主と呟き、エイトとカリーナの方を向いた。


「お客さん、二人とも見かけない顔だが…、マークスの知り合いかい?」

「あ、僕達先日この街に来たばかりなんです」


 エイトがそう言って、カリーナも店主に目を向け頷く。

 するとマークスは、「俺の、友達です」と店主に言い、エイトとカリーナの方を向き笑顔を見せた。

 その時、エイトとカリーナは少し驚いていたが、同時に嬉しさが込み上げていた。マークスが、自分達を友として見ていてくれたのだということが、何より嬉しかった――。

 その様子を見ていた店主は、「それじゃあ、今日はサービスだ!お代はいらないよ!」と言った。


「いやいや、そういうわけにはいかないですよ…!」


 マークスがズボンのポケットから硬貨を出そうとしていたが、店主は、「いいよいいよ!」と断った。


「二人はマークスの友達だろう?二人のセレタ初観光記念ということで、今日はタダだ!そのかわり、これからもウチをご贔屓に頼むよ」


 店主にそう言われ、エイト達はタダで買った肉パンを手に持ち、街を歩いた。近くの広場で食べることにし、噴水がある場所に座った。


「いただきまーす!」


 エイト達は揃って口いっぱいに分厚い肉が挟まったパンを頬張った。

 まだ出来たてで温かく、肉は柔らかい。トロトロと甘辛い肉とモチモチしたパンとの相性が抜群に良いバランスを引き立てている。


「何これ!?すごくおいひい!!」


 カリーナが笑みを浮かべながら言うと、マークスは、「だろ?」と言った。


「ここの肉パンは本当に美味しいんです!月に二、三回、頑張って働いたご褒美にみんなで食べるんです!エイトさん、美味しいですよね?」


 ハリーがエイトにそう言うと、エイトは「うん!凄く美味しいよ!」と言った。

 すると、カリーナは広場を見渡し、「いい街なのにね…」と呟き、マークスが振り向く。

 観光街は栄えていて、活気に溢れとても明るい。――しかし、街の裏側ではルーカス達のように貧しい生活を送っている者達が沢山いる。

 そのことをエイトとカリーナは直に感じながら、どうにかならないものか考えていた。

 するとマークスは、「なぁ、次は俺達のとっておきの場所を案内するぜ」と言った。


「とっておきの場所?」


 エイトとカリーナが揃って口にすると、マークスは微笑んだ――。



 ◇



 マークス達に連れられ、エイトとカリーナは街を歩き、やがてある店の前に辿り着いた。


「ねぇねぇ、エイトお兄ちゃん、カリーナお姉ちゃん!ここが私達がいつも行くとっておきの場所だよ!」


 アニーがそう言って指を指したのは、赤い装飾がなされた骨董屋のような店だった――。


「ここが、とっておきの場所…?」


 エイトがそう話すと、マークスは「そうさ、ここがとっておきの場所だよ」と話した。

 ――建物を見て、エイトとカリーナは正直不安を感じていた。言われるがままに来てみたが、中々気が進まない。店が怪しそうな雰囲気を醸し出しているからである。

 だが二人の気持ちはつい知らず、マークス達は「こんにちはー!」と言って、どんどんと店の中へ入っていった。

 エイトとカリーナはお互いに目を合わせる。


(仕方ないか…)


 二人はそう思いながら意を決して入ることを決めた。中へ入ると、そこには骨董品のほかに沢山の古本が敷き積まれていた。


「凄い…!」


 エイトとカリーナは目を見開き、揃って呟く。


「エイトさん!ここはお宝がいっぱいだよ!」


 ハリーが興奮しながらそう話した。その横でエイトは一冊の本を手に取る。


「こ、これは歴史書じゃないか…」


 本を見ながら驚いていると、店の奥の方から気品高い女性が近づいて来た。


「そう、それは三〇〇年前に書かれたものよ。もっと古いものもあるわ」

 そう言うと女性は他の本を手に取り、僕に手渡した。


「これは四〇〇年前のもの。残念ながら五〇〇年前のものは欲しくても中々手に入らない貴重なものでここにはないのだけれどね」

「…どうして、こんな貴重なものが…。どうやって手に入れることができたんですか?」


 カリーナが問いかけると、女性は二人に向かって妖艶に微笑んだ。


「…気になるのなら、また後で来るといいわ。詳しいことを教えてあげる」


 二人は怪しげな彼女の言葉に、後退りをしそうになったが、その時、マークス達がこちらに向かってきた。


「お、いたいた!カミラさん!」

「あら、こんにちは。ルーカス、ハリー、アニー、ナンシー」


 マークス達が親しげにカミラという女性と話しているのをエイトとカリーナは不思議そうに見ていた。


「マークス君。この方は…?」

「あぁ、紹介するよ。こちらはカミラさん。父さんと母さんの友人で、俺達も昔から色々お世話になってたんだ」


 エイトとカリーナは「そうなんだ…!」と理解した。


「カミラさんは色んな国の貴重なものを集めるのが好きで、小さい頃から俺達もよく色々なものを見せてもらってたんだ」


 ルーカスが「なっ?」とハリー達に同意を求めると、彼らも「うん!」と嬉しそうに答えた。

 カミラはマーカスの父・ユアンと母・ジアとは親しい間柄であったみたいで家族ぐるみの仲だったらしい。


「昔からジアとは世界の歴史について話に花?を咲かせたものだったわ。お互いに考古学者になるために勉強もしたけれど、途中で挫折して、彼女は結婚し、私は未だに一人で世界各地の貴重なものを集めて店を営んでる。そうして今は、こんな風に店に来た人達に世界の様々な歴史について教えてるの」


 カミラは微笑みながら、「人それぞれ、人生は色々ね…」と思い出を懐かしむように話す。


「そういえば…、あなた達二人はこの街の人ではないわよね…?」

「…あ!自己紹介が遅れました。僕はエイトと言います」

「私はカリーナです。今、二人でまだ旅に出たばかりで、この街に来てからマークス君達と知り合って、今は街を案内してもらってたんです」


 エイトとカリーナを見て、カミラは微笑みながら、「二人は旅人なのね…」と話す。


「フフフ、よろしくね。観光街には色んな店があるわ。ゆっくり見てらっしゃい」


 カミラがそう話すと、店の入り口から「失礼するよ」と声が聞こえてきた。


「いらっしゃ…」


 カミラがそう言いかけた瞬間、彼女は黙り込み体を硬直させる。

 エイト達は一斉に入り口の方へ振り返ると、そこには高貴な格好をした男性が立っていた。

 マークスの方を向き、エイトが「…誰だろう?」と呟くと、彼は驚いた様子で立ち尽くしただ男性の姿を見ていた。


「アイツは…!」


 マークスは呟きながら男性を睨みつけた。エイトはそんな彼の様子を見て、この男性との間に何かがあるのではないかと確信していた――。

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