一波乱
「出来た……」
ナタリーは鏡で自分の姿を様々な角度からチェックしている。
「ミア! 終わったよ!」
ナタリーが振り向くと、ほぼセットされた状態で椅子に座っているミアの姿があった。
「うわっ、なにこれ、完璧じゃん」
ミアの髪型をナタリーは怪訝な顔で見る。
「こんなに上手いなら始めからロボに頼んでおけばよかった」
零すように言うナタリーの言葉に、ミアが言い返す。
「だから言ったじゃん。ロボ君はこういうの上手だって」
「聞いてたけど、ここまでとは思わないじゃん」
2人が軽い言い合いをしている中、ロボは手を動かし続けていた。
「出来た」
そう言ってロボは持っていた櫛をテーブルの上に置いた。
「凄い。ちょっとこれは放っておくには勿体ない才能かも」
ナタリーはミアの髪型をまじまじと見て言う。
「そんなに凄いの? ミアにも見せて!」
そう言ってミアが立ちあがった時、なにかが床に転がった。
「ん? なにか落とし……」
ロボが拾うと、それはミアがいつも首から下げている変身用魔法石だった。
「なっ!」
慌てたようにミアの方を見ると、髪に羽毛が交り始め、背中が少しづつ盛り上がってきているところだった。
「ちょっ、まっ、ナタリー!!」
名前を呼ぶと、少しの間きょとんとした顔をしていたナタリーも、ミアの姿を見て事態に気が付いたようだった。
ナタリーは慌ててミアの背中を抑え、出てこようとしている翼を抑えつける。
「バカ! ドレスが裂ける!」
「魔法石!」
慌てて拾い上げた魔法石を確認すると、魔力が切れているのか光が消えている。
ロボはどうするべきかと迷い、そして思いついたように顔を上げて言う。
「ディシーブ アピアランス!」
ロボがそう叫ぶと、元に戻りかけていたミアの背中は少しづつ小さくなり、髪から覗いていた羽根も透過していった。
「……ごめんね?」
事態を飲み込んだミアが気まずそうに謝罪の言葉を述べる。
「いや、いい。それよりドレスは?」
ロボがナタリーに声を掛けると、ナタリーはミアの背中を見ながら言う。
「大丈夫そう。留め具の所だけ外れちゃったから、そこだけ直すわ」
ナタリーは近くのテーブルから裁縫セットを手に取る。
「ミア、数分だけここ座って。少しチャック降ろすからロボは後ろ向いてて」
「わかった」
ロボは立ち上がり、姿見の前でネクタイを微調節し始めた。
「それにしてもいつの間に新しい魔法覚えてたの?」
ミアの声にロボは振り返らずに答える。
「街に行く機会があって、その時アーロンに教えて貰った。俺自身必要なものだったしな」
「そっか。じゃあ、今度から街に行くときはパパじゃなくてロボ君に頼めばいいのか」
「えっ」
ミアの言葉にアーロンが反応する。
「いやあ、でもロボは魔法覚えたてだし、そこは偉大な魔法使いである僕に頼んだ方が安心なんじゃないかな」
「魔法石の魔力残量とかたまに少なかったりするから、パパはあんまり信用できない」
「うっ……」
ミアの言葉にアーロンはショックを受けたように、胸を抑える動作をする。
「で、でもたまにでしょ? 普段はこんなにしっかりと――」
「こっちを向くな」
ミアの方に近付いた時、ナタリーがギロリとアーロンを睨みつける。
「……すみません」
アーロンはすごすごと後ろに下がっていった。
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