恋の行方は

 その姿を見て、ダレンはハッとしたような顔をしてナタリーに近付く。


「身体の方は大丈夫なの? さっき蹲ってたから心配で」


 ナタリーの注意がこちらに向いていないのを確認して、ロボはアーロンに小声で話しかけた。


「そういえば、ナタリーはどうして蹲ってたんだ? 身体が弱いとかそういうの無い筈だろ」


「ナタリーに持たせていた変身魔法石の残量が少なくなっていて、変身が解けかかっていたんだ。だからさっき魔力を補充して、魔法も掛け直したからまた暫くは大丈夫だよ。首元が完全に戻り始めていたのに気が付いて、思わずしゃがみ込んだみたいだね」


「なるほどな」


 ロボは納得したように顔を縦に振る。




「じゃあ」


 ナタリーが少し大きな声を出した事に気が付き、皆一斉にナタリー達の方へ視線を向ける。


「今日はもうおしまい。はい、解散するよー」


 そう言うと、ナタリーは地面に散らばっていた紙袋を、黒スーツの2人に渡した。


「私ももう帰る時間だし、お迎えも来ているからね」


 ナタリーはロボとアーロンを親指で指さした。


 帰り支度の進む展開にダレン達は動揺した様子を見せ、コソコソと小声で話し始めた。


 ロボとアーロンにその声は聞こえていないが、ナタリーにはきっと聞こえているんだろうなと思い、ロボは同情する目でその様子を見ていた。


「じゃ、じゃあ、もう帰ろうか」


 ダレンが何処か難しい顔をしながらそう言うと、黒スーツの2人が今度はロボ達にも聞こえる小声で話しかける。


「よろしいのですか? 坊ちゃん」


「うん。今日は楽しい時間を過ごせたし、今回を機に仲良くなって誘いやすくなったから。また誘えばいいんだよ。これ以上引き留めちゃいけない」


「そうですか」


 黒髪の男はナタリーを見て、口を噤むような表情をした。


「坊ちゃんが、そうおっしゃるのであれば」


 黒スーツの2人はダレンの背後へと下がった。


「ナタリーさん、今日はありがとう。誰かと出掛けたのは久し振りだったから、とても楽しい時間を過ごせたよ。折角の休日だったのに、付き合わせちゃってごめんね」


「気にしないで。私も出掛けたいなと思っていたところだったから、誘って貰って丁度良かった」


「そう言って貰えると、安心するよ」


「成功するといいね」


 ナタリーは紙袋を指さしながら言う。


「……うん。ありがとう」


 ダレンは少し寂しそうに笑いながら、返事をした。






 解散後、3人は暗くなった夜道を家に繋がるゲートへと歩いていた。


 少しだけ前を歩くナタリーの後ろを、ロボとアーロンが並んで歩いている。


 なんとなく気まずい気配が流れ、無言で歩いていた時、アーロンが口を開いた。


「ねえ、ナタリー。どうして気付いていないフリをしていたの?」


 ナタリーは歩く足を止めることなく、前を向きながら答える。


「なんのこと?」


「ナタリーは他人の気持ちに気付くのが人よりも早い方だろう? そんなナタリーがダレン君の気持ちに気が付いていない訳がないよ」


「なに? 付き合うのはまだ早いんじゃなかったの?」


「いや、まあ、それはそうなんだけど……」


 口籠っていたアーロンは、振り払うように顔を左右に振る。


「そうじゃなくて! ダレン君の気持ちに気付かないフリをしてるどころか、有耶無耶にしようとしてるよね?」


「別に、そんなんじゃないよ」


 ナタリーは少し不機嫌そうな表情をする。


「じゃあ、どうするつもりなの? きっとダレン君はそう遠くないうちに告白をして来ると思うよ。その時、ナタリーはどう答えるの?」


「簡単だよ。そうさせないように誤魔化すだけ」


「それはあまりにもダレン君に失礼じゃないかな。気持ちに答える気がないのなら、まずはきちんと相手の気持ちを受け入れて、それから断りの言葉を――」


「そんなこと出来るわけないじゃん」


 ナタリーは2人の方に振り返り、尖りのある声で言う。


「ダレンの家は獣人に差別的な家なの。父親は侯爵でダレンはその1人息子。そんな大事な息子の恋人が獣人だなんて、絶対に許されない。それに、ダレンだって私の本性を知ればすぐに気が変わる。あんな事を言っているのは、今だけだよ」


 そう言い終わると、ナタリーはくるりと背を向ける。


「ほら、早く帰ろう。ルイス達が待ってる」


 2人の話を聞いていたロボは、何かが引っ掛かるように首を傾けて言う。


「その言い方だと『自分が獣人という障害が無ければ、ダレンの気持ちに答えていた』という風にも聞こえるんだが」


 ロボの言葉にナタリーはピタリと動きを止める。


 そして2人の方へ振り返った時、ナタリーの顔は赤く染まっていた。


「いいから! 早く帰るよ!」


 照れ隠しをするように再び前を向き、ナタリーは早足で歩き始める。


 その後ろを置いて行かれないように、2人は駆け足で追いかけた。

 

 

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