羽根

 その時、店から2人が出て来た。

 ダレンの手には紙袋が1つぶら下がっている。


「いいの見つかって良かったね。トップスは買ったからこれに合わせるバッグとかパンツとかを探して……。あ、予算とかはどのぐらいまで大丈夫?」


「え? あー、いくらでも大丈夫だから、気にしないで」


 ダレンは財布を確認することなく即答する。


「わかった。まあ、高級店とかは行かないから安心して」


「なら良かった」


 店を出て歩いていると、ダレンが1つの店の前で立ち止まった。


「あ、ねえ、この店見ていかない?」


 鳥のシンボルマークの描かれた看板を掲げるその店は、鳥の羽を扱う店のようだった。

 店先や店内の至る所に、羽を使った帽子やアクセサリーなど置かれ、人口的に作るのは難しそうな不思議な色合いをした綺麗な羽が、沢山並んでいた。


 ナタリーはその店を一瞥すると、くるりと店に背を向けた。


「え、ちょっと見ないの?」


 ダレンが慌てて声を掛ける。


「あー、私はいいや」


「そうなの? でも、買い物に付き合って貰ってるからなにかお礼をしたいと思ったんだけど」


「あんまり好きじゃないんだよね。こういう店」


「でもとっても似合うと思うんだけど……」


 後ろ髪を引かれるように店の前からなかなか動こうとしないダレンにナタリーは近づき、ダレンの手から紙袋を取った。


「お礼とかいいから、早く次の店行こ」


「う、うん!」


 ダレンは少し顔を赤らめながら首を縦に何度も振った。


 紙袋を取られる際にナタリーの手が当たったのか、ダレンは自分の手を嬉しそうな目で見ながら、先に歩くナタリーの後を追った。





 2人の後を追いかけて、アーロンとロボも鳥のシンボルマークの店の前に来た。


 ロボはショーウィンドウに並ぶアクセサリー類を見ながら、ポツリと呟く。


「綺麗だな……」


 ロボの言葉に気が付いたアーロンは、ロボに近付き言った。


「そうだろう? これはね、鳥人種たちの羽根を使っているんだよ。幼羽から換羽を経て大人になった羽根は陽の光の当たり具合によって様々な色に変わる。人工的には作り出せないとても美しい羽根へと変わるんだ。でもこの色合いは彼等の身体に流れる魔力からなる美しさだから、死んでしまった鳥人種はこの色合いを失ってしまうそうだよ。不思議なものだね」


 アーロンの説明を聞いていたロボは、ふと浮かんだ疑問を口にする。


「という事は、この羽根は生きている鳥人種から採ったもの、ということか?」


 声が聞きやすいようにロボの側でしゃがんでいたアーロンは、ニコリと笑う。


「うん、そうだね。彼等から貰ったものをアクセサリーに加工して販売しているんだ。鳥人種の羽根は定期的に生え変わるから、抜けてしまったものを加工用として売っている人もいるそうだよ。でも抜けたものは所謂古くなってしまった羽根だから、加工品として仕えるものは少ないんだ。だからどうしても生活に困った人は抜いた羽根を売ったりすることもあるんだよ」


「羽根の売買を人間と鳥人種で行っているのか?」


「そうだよ。鳥人種の羽根は見た目が綺麗という他に、吉兆の印だったり新しいことに挑戦する時のお守りだったり、色んな意味合いがあるとされているから、求める人が多いんだ」


「ふーん」


 なんとなくショーウィンドウに飾られているアクセサリーを見ていたロボは、ひと際目立つ所に置かれている物の値札を見て眼をしばたたかせた。


「でもね、求める人が多いという事は多額のお金が動く機会でもあるという訳で、もっと沢山の羽根を手に入れて儲けようという人もいるんだ。そう、悲しい話だけど捕まえた鳥人種から全ての羽根を抜き取れば、抜け落ちた羽根を少しづつ集めるよりも品質も効率もいいからね」


 アーロンは苦い顔をする。


「そういう背景を知っているから、ナタリーはこの店に入らなかったんだろうね。特にうちにはノアとミアがいるから、他人事には思えないんだよ」


 アーロンは立ち上がり、膝に着いた砂を手で払う。


「でも、こういう物を取り扱うショップ全てが悪いわけではないよ。実際に羽根の需要がある事で、生活が出来ている人達も沢山いるわけだしね。もしこれらを買う時は適切な入手経路と適切な値段を設定をしている良心的なお店を見つけて利用すればいいんだよ」


 アーロンがロボの頭にポンと手を置いた時、店から店員が訝し気な表情で顔を出した。


 店の前で話し込んでる2人を客なのかそれ以外なのか、決めあぐねている様子だった。


「いらっしゃいませ」


 社交辞令的に中へと誘導しようとする店員に、アーロンは慌てたように手を顔の前で振る。


「ああ、すみません、こんなお店の前で! また今度利用させてもらいますので!」


 そう言うと、何度も会釈を繰り返しながらロボの手を引っ張ってその場を足早に去った。


 

 

 

 

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