ファッションデザイナー

 ナタリー達の後を追うと、2人はとある服屋から出て来た所だった。


 ナタリーは店主らしき男性と親し気に話をし、男性に茶化されたのか、ダレンは終始照れたように笑っていた。


 2人が店から離れた所を見計らい、通行人のフリをして店の前を通ろうとした時、男性がアーロンに声を掛けた。


「あれ、アーロンさんじゃないですか」


 声を掛けられたアーロンは、慌てたように口の前で指を立てて男性を店の中へと押し込み、扉の陰からナタリーの方を伺う。


 会話に夢中なのか、ナタリーがこちらに気が付いた様子はなかった。


「どうしたんですか? なにかお仕事中とかです?」


 店の中に押し込まれた男性は、不思議そうな顔でアーロンに問いかける。


「いえ、あの、なんていうか……」


 どう説明すべきか、アーロンは迷っているようだった。


「お恥ずかしいお話なんですけど……」


 ここまでの経緯をアーロンから聞くと、店主の男性は堪え切れないといったように笑いだした。







 暫く笑っていた男性は、肩で息をしながらようやく声を発した。


「かの偉大な魔法使いといえども、衣を脱いでしまえば1人の父親なんですね。ブフッ」


 男性は再び顔を下げると、肩を震わせた。


「わ、笑いすぎじゃないですか? 確かに恥ずかしい事をしている自覚はありますけど!」


 赤い顔で憤慨していたアーロンは、ロボと目が合うと、咳払いをしてローブ正した。


「こちらはナタリーがお世話になっているお店の店主のレナードさんだよ。このお店の他にも店舗を経営してる有名な服のデザイナーさんなんだよ」


 同時にロボの紹介もレナードに対して行うと、レナードは涙を拭く仕草をして、ロボに手を差し出した。


「レナードだよ。よろしく」


「……どうも」


 ロボは戸惑うように視線を左右に振ると、ゆっくりと手を取り、アーロンの方へとすぐに視線を戻した。


「ナタリーはここで働いてるってことか?」


 ロボは気まずさを掻き消すようにアーロンへ問いかける。


「ああ、そうだよ」


 ロボの疑問にレナードが答える。


「ナタリーは週に数回、店の手伝いをしてくれているんだ」


「ナタリーには将来自分の店を持ちたいって夢があるから、ここで修行をさせて貰っているんだよ」


 レナードの回答に、アーロンが付け加えるように答える。


「本当は毎日でも来て欲しいぐらいなんだけど、ここからアーロンさんの家は遠いから、そう頻繁には来られないらしくてね。でも、ナタリーは本当に優秀なデザイナーだよ。新しい服のデザインがポンポン出て来るし、新しいものを生み出そうとする探求心もある。なにより服を着る人の事を考えようとする心構えがいい。本当にアーロンさんには良い子を紹介してもらいましたよ」


「そう言って貰える僕も嬉しいですね」


 アーロンは照れたように頭を掻いた。


「いつの日か独り立ちする時には言ってくださいね。生活が安定するまでの衣食住とか全面的に協力しますから。まあ、アーロンさんがそれまでに子供離れ出来るのかはわかりませんけど」


 そう言うと、レナードはまたくつくつと笑った。


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る