逃走
突き当たりの角を曲がり、その場に立ち尽くしていたダスティの姿が見えなくなった時、ロボは行動に出た。
ロボを担いでいる下っ端の耳元に口を近づけ、周りには聞こえない小さな声で囁いた。
「汚ねえ手で触ってんじゃねえよ。他人の指示を聞くことしか出来ねえ、このクソ能無し野郎が」
言葉を言い終わると同時に、ロボは側にあったレンガの壁に背中から叩きつけられた。
怒りに任せて思い切り叩きつけられたため、壁は音をたてて壊れ、レンガの何個かが頭に当たった。
胸の中に鋭い痛みを感じ、ロボは何度も咳き込んだ。
口から出て来た淡には、血が混じっている。
ふと顔を上げると、3人が下っ端の男を中心に言い争っていることに気が付く。
「何をしている! 外で目立つ行動はするなと言われているだろう!」
これまで必要最低限の言葉しか口にしていなかった女が、大きな声で喚いている。
「だって、こいつ俺に暴言を吐いたんだぜ? 殺さない程度に手加減出来ただけでも褒めてくれたっていいだろ?!」
2人の言い合いに、ガタイの良い男は割って入った。
「あー、もう、うるさいうるさい。もうこいつは俺が担ぐから、それでいいだろ」
呆れたような顔でロボに近付いて行くガタイの良い男に、ロボは手にしていた物を突き付けた。
下っ端の男は頭に血が上りやすく、怒ると周りが見えなくなる。
そして獣人に強い殺意を抱いているせいで、ちょっとしたことで手が出やすい。
この3人の中で一番攻略しやすいのは、この下っ端の男だとロボは始めから的を絞っていた。
担がれた時に腰の拳銃を触って表情を探り、ダスティが気を引いている隙にロックを外しておき、投げられそうになった時に拳銃を掴んで、そのまま投げられて引き抜いていた。
元々先程下っ端の男が使っていた魔道具は拘束する時にしか使用しない拳銃で、普段あまり使用することはないのか、拳銃への関心が甘く、何度か触れてもあまり気付いていないような態度だった。
それに気が付いたロボは何度かダスティの目を見て訴えた。
ダスティがロボの考えを察してくれるかどうかは賭けだったが、意図は十分に伝わったようだった。
2人が普段盗みをする時にしている作戦はシンプルだった。
ダスティが気を引き、その隙にロボが物を盗む。
それ以外の作戦を使用する事はあまりない。
だから今回も同じ手法でダスティが声を掛けて気を引き、その隙にロボが拳銃を固定するロックを外したのだ。
こいつが馬鹿で助かった、とロボは皮肉を含めて感謝した。
ロボは持っていた拳銃を目の前まで来ていたガタイの良い男に突き付け引き金を引いた。
ガタイの良い男は俺が手にしていた物を見て驚いた顔をしたが即座に状況を判断し、発射された電気を帯びた鎖を腕で受け止めた。
壁が壊れた事で舞っていた砂埃と、ガタイの良い男の大きな背中で、ロボの姿をきちんと見えていなかった他の2人は、ロボの予想外の行動に動揺し、動く事が出来ていないようだった。
その隙をついてロボは後ろの壁に空いた穴から抜け出した。
足が地面に着く度に、折られた膝が酷く痛むが、幸いな事に歩けない程ではない。
それでも急いでここから離れなければ。
限界まで引き上げた電気を当てたと言っても、人間の癖に化け物みたいなあいつらは持って1分程しか拘束出来ないだろう。
本気で追いかけられれば、一瞬で捕まる。
ロボは痛む右足に鞭を打ち、歩く足を速めた。
路地の出口付近で不安そうな顔で周囲をキョロキョロしているダスティがいた。
ダスティはロボを見つけると側に寄っていく。
「大丈夫か?!」
「ああ、なんとか。ただ、もう走れそうにない」
ダスティに肩を借りるようにもたれ掛かると、ロボは自身の膝を指さした。
「ここまで走って来られただけでも凄いぞ。取り敢えず一度ここを離れよう」
ダスティはロボをおんぶすると、しゃがみ込んで大きな足に力を入れ、勢いよく蹴り上げた。
2人分の体重が圧し掛かっているというのに、その身体は高く舞い上がり、壁を何度か蹴り上げ、そのまま側にあった家の屋根へと着地した。
ダスティの背中に身体を預けながら、ロボは道を示した。
「出来る限り人通りの多い場所を行ってくれ。あいつらあまり目立つ事はしたくないらしいからな」
「わかった」
ロボは何度か後ろを振り返ってみたが、人の多い場所を選んで通っている為か、あの3人の姿は見えなかった。
ロボの自宅は襲撃され、ダスティの自宅もバレているとのことだったので、二人は仕方がなく街の中央通りにある噴水広場に来ていた。
よく待ち合わせなどに用いられることもあるので、まあまあな人通りがあり、人の目は十分ある場所だからだ。
「それで、どういうことか説明してもらおうか」
噴水横に腰掛けてすぐ、ロボは質問をぶつけた。
ダスティは言葉を探すように目を上下左右に動かし、中々話し出さない。
「一体何があったんだ」
ダスティの行動に多少イライラしながら、ロボはもう一度声を掛けてみた。
「…えっと」
ダスティは何度か出そうとした言葉を飲み込み、苦しそうな顔で項垂れて言った。
「人を…、人を殺めてしまったんだ」
「は?」
全く予想すらしていなかった言葉に、ロボは聞き間違いだと思い聞き返した。
「…すまん、もう一度言ってくれ」
「人を…殺しちゃったかもしれないんだ」
聞き間違いではなかったことが分かり、ロボは気を落ち着かせる為に大きく深呼吸をした。
「取り敢えず一から全部話してくれ。ちゃんと聞くから」
「うん…」
ダスティは震える手で顔を覆いながら、話始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます