第13話

「なんで、何も聞かないの?」


 ほとんど言葉を交わさずにここまで来たレーシアが口にしたのは覚えて当然の僕への疑問であった。


「僕があなたから事情を聞くことであなたが救われますか?」


「……そ、それは」


「聞いておいてなんですけど、救われるかもしれませんね。ですが、我が神が尊重するのは己の意思です。僕は自分からあなたに何かをすることを強いたくないのです。それにあなたが何者であったとしても僕が救うべき迷える子羊に過ぎませんね」

 

 僕はレーシアの頭の優しく撫でながら話し続ける。


「貴方がどんな人間で、何をしていたとしても僕は貴方を受け入れます……安心してください。僕は貴方を捨てませんよ」


 ……捨てられないからな。


「……私は」

 

 僕の言葉を聞き、安堵感を覚えたのか。

 レーシアはゆっくりと話し始める。


「生まれたときから闇の世界を生きてきました……周りの大人に言われるがままにそして、今も」

 

「はい」


「人を殺して、殺して……殺して、殺して。殺し尽くして。私は、本当に正しいのでしょうか……私は、何がしたいのでしょうか」


「正しい、正しくない……それを考えるの、馬鹿馬鹿しいと思いませんか?」


「えっ……?」


「善悪の基準など、所詮はその時代によって変遷する曖昧な概念でしかない。そんなもの基準に考える必要があるでしょうか?それに、神は人ではありません。我々とは違う価値観を持った全能の存在です。神は人の善悪によって人を見分けません」


『ある程度は見分けるのじゃが……』


「善悪もなく、神が示す道もない……であれば、我々自身が進むべき道を探す他ないでしょう。己が意思に従い、行動すればその強き意思を神は評価してくださるでしょう。そして、死後、救いを与えてくださるでしょう」


『死んでも別に何も起こらないのだが……ただ、脳細胞が死んで何も考えられなくなるだけで』


「貴方は何がしたいですか?迷える子羊よ」


「わ、私は……」


「僕は貴方の決断、貴方の行動を最大限尊重し、もし助けて欲しいことがあれば助けると誓いましょう……貴方は、何を望みますか?」

 

 

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