第10話
家の天井に血塗れの女性が落ちてきた。
血塗れの女性を家に入れ、応急処置を施した。
女性が起きたと思ったら一度、死んだ。
僕を殺した女性が僕の胸の中で泣いている⬅イマココ
改めて考えると意味わからないことしか起きてない中、それでも教祖として女性に優しく接した僕。
空腹を訴える己の腹を無視しながら、女性をあやすこと一時間。
ようやく泣き止んでくれた女性と向かい合って僕は座っていた。
「それで?あなたは一体何者なのでしょうか?僕としては一度、殺されているので、このまま何も聞かされずにいるのは不満なのですが」
「……」
僕の疑問に対して、女性は黙るばかりであった。
「……レーシア」
長い沈黙の末、女性がポツリと単語を漏らす。
「それが、私の……名前です。すみません。今の私に言えるのはこれだけなのです」
「そうですか」
女性もといレーシアの言葉に僕は笑みを浮かべたまま頷く。
「貴方が己の意思で僕へと一歩、歩み寄ってくれたことに感謝します」
「え?」
「何を驚くことがありますか?僕は悩める子羊を導く教祖であり、ただの人です。ただの人でしかない僕は貴方を罪人だと断ずる権利も、断罪する権利も持ちません。僕は、そして神は貴方の意思を、貴方の不断の意思と決意によって行うありとあらゆる行為を容認し、称えてくれるでしょう」
「わ、私の……意思」
「はい。そうです」
僕はレーシアの言葉に頷く。
「ですが、見たところ貴方は自分の意志で動けては居ないようですね。人は誰もが自由で平等で、己が望むすべてのことを行う権利が存在します。しかし、人は様々なものに縛られ、生きている。己がしたいことだけを出来るわけではない……貴方が何かのために己の意思を殺し、誰かの意思で動くことも神は許してくださるでしょう」
「なにかの、ため」
「はい、そうです……親愛なる迷える子羊よ。僕は何も聞きませんし、何もしません……僕は不死者であり、永遠。何も変わらずここにいます。もし、貴方がまた泣きたくなったら、助けを望むなら、自分の思いのはけ口を望むなら、いつでもここに来てください。神は何者も拒みませんから」
拒んでいるような余裕もないしな。
僕は心の中でそんなことを思いながら、レーシアに笑みを向け続けた。
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