第11話

 いきなり現れた女性、レーシア。

 結局彼女は僕に対して、迷惑をかけた謝罪と感謝の言葉を告げた後、どこかへいなくなってしまった。


「はぁー、クソ」

 

 夜中、誰もいなくなった部屋の中で僕は暴言を吐き散らす。

 

「不死者って言ったって痛覚はあるんだっつぅーの。いてぇねには変わりねぇんだよ。クソ、未だに死ぬのになれやしねぇ」


 僕のスキルである『不死者』は己を死ななくさせるだけであり、決して痛覚を無効にするような便利な能力ではない。

 玲香に食われる際に体を支配する激痛と不快感。

 レーシアに体を吹き飛ばされ、首だけとなった息苦しさと苦しみ。

 それらすべてがしっかり僕の五感に流れ、記憶に刻みこみ、僕を苦しめる。


「……あー!死ねッ!」

 

『嫌なら彼女たちを避ければよいのに……』


「あぁん!?テメェが教祖やれって言っているからこんなことになっているんだろうガァ!!!」

 

 突如僕の前に現れ、神の奇跡を見せつけながら教祖にならなければこの世界を滅ぼすと脅した空白。


『信徒の対象を他にするとか……』


「基本的に宗教という存在に対して眉をひそめるような稀有な国でただの高校生がまともなことやって信徒獲得出来るわけねぇだろッ!何度言えばわかりやがる!?」

 

 僕だって自分が苦しむようなことはしたくない。

 しかし、する以外に方法がないのだからしょうがないだろう。


「デメリットスキルで悩んでいる奴は案外多い……うちの父親がそこらへんを対処する人間だったから知ってんだよ。僕という存在はデメリットスキル持ちにとって希望そのものであり、信仰に繋げられる……僕が死ぬことにさえ慣れればある程度は増やせる。僕以外の人手が獲得できりゃまだやりようもある」

 

 一週間に一度、僕を食い殺すだけでデメリットスキルによるデメリットを打ち消せる玲香。

 彼女は僕がこれから人を殺したり傷つけなければ生きていけないようなデメリットスキル持ちを信徒として受け入れていけるよう……傷つくことに慣れていくための道具だ。

 ……未だに死ぬことになれる気配なんてねぇがな。

 一週間に一度でも前日の夜に一晩中恐怖で泣いて眠れなくなっちまうくらいだ。


『信徒を増やすことがここまで壮絶になっているとは思わなんじゃ……』


「じゃあ、僕を脅すのやめてくれよ」


『……悪いが、それは出来ぬのじゃ』

 

 僕の言葉に対して空白は申し訳なさそうな表情を浮かべながらそう告げる。


「ちっ……」

 

 僕は舌打ちを一つつき、彼女から目を背ける。


「はぁー」


 ……ったく。僕は一体何をやっているんだが。

 空腹にあえぎ、苦しみながら幾度も死に、未来に希望もなくただ一人で生きる。


「世界なんて知るかよ」

 

 僕はどうしようもない自分を皮肉るように言葉を漏らし……僕は何もかもから逃げるため、さっさと寝ることにした。

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