第8話

「すぅ……すぅ……すぅ……」


 気持ちよさそうな寝息をたて、僕の前で眠っている一人の女性。

 

「ふぅー。とりあえずこれで問題なさそうかな?」

 

 僕の家の天井へと落ちていた血塗れで今にも死にそうだった女性を僕の一室へと寝かせ、僕の家にある雀の涙のような少ない医療器具を使ってなんとか彼女の出血を抑えた僕は深く息を吐く。

 パッと見た感じでしかないが、彼女から死が遠ざかっているように認識出来る。 

 多分、これで大丈夫だろう。


「……さて、と。問題はどこに連絡するからだよな」

  

 これだけボロボロになり、死んでもおかしくないような怪我を負っているのだ。

 普通であれば、救急車を呼ぶのが正解なのだろうが……この女性が普通出ない可能性がある。

 この世界にスキルが誕生し、世界情勢が荒れる似合わせてこの世界の裏側も濃くなっているのだ……一般人であってもある程度認知出来るほどに。

 戦闘に適した服を着こなし、血塗れになって倒れていた女性……果たしてこの人は普通の人なのだろうか?


「うぅむ……」

 

 これで救急車を呼んだはずなのに、うちの家にどこかの国の特殊部隊が突入してきましたとなったら目も当てられない。

 僕が死ぬことも拘束されることもないが、家が壊されることはある……家が壊されたら本気で泣く。

 ここは僕に残された唯一の財産なのだ。


「う、うぅ……」


「おや?」

 

 どう対処するべきか。

 僕が悩んでいると、目の前で眠っている女性が体を動かし、小さくうめき声を上げる。


「んんっ……」

 

 そして、ゆっくりと目を開かせる。


「おぉ!起きたのか」

 

 寝ていた女性が起きた。

 これならば僕が一人で悩み続ける理由はないだろう。

 鬼が出るか蛇が出るか……それはわからないが、とりあえず事態は進んでくれるはずだ。


「ん……?」

 

 座っていた僕が女性の方へと身を乗り出した瞬間……なんか嫌な死の予感を感じたと思ったが時には既に時遅し。


「……ぁ」

 

 目の前にいたはずの女性の姿はどこにもなくなり、僕の体は浮遊感を感じ取る。

 いや、違う。

 体が無くなり、首だけとなって落ちているのだ。


「はへ?」

 

 体が床の染みとなり、首だけとなって床を転がる僕は突然の事態に首を傾げたのだた。

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