第4話

「それじゃあ、行ってくる。いつも掃除をありがとう。これからもよろしく頼む」


「はい。もちろんです。行ってらっしゃい。あなたに神のご加護があらんことを」


「うむ」

 

 僕の言葉に頷いて仕事に向かうべく駅の方へと向かって歩いていく中年のサラリーマンへと僕は手を降って見送る。

 掃除を始めてから早一時間ほど。

 僕は多くの人と挨拶し、『神のご加護を』という言葉を告げ続ける。

 こうした活動を行ってからかなりの月日が経ち、ようやく街の人のほとんどが怪しい高校生教祖の祈りの言葉を好意的に受け止めてくれるようになっていた。


『うーむ。一応僅かながらも彼ら、彼女らから信仰心が得られるがもっとガッツリと信仰心が欲しいものじゃ……』


「千里の道も一歩から。塵も積もれば山となる。水滴石を穿つ……少しでも信仰心を積み重ねるんだよ」

 

 少しずつ……そう。少しずつ彼ら、彼女らの心の中に僕の話す神を入れていくのだ。

 咄嗟に行う神頼み。咄嗟に行う神への感謝……無宗教と言いつつも固定でない概念的な神への信仰心を持つ日本人。

 彼ら、彼女らの概念的な神のイメージを僕の告げる神のイメージへと固定化することさえ出来れば十分である。

 毎日、毎日聞けば自ずと変わっていくだろう……多分。


「ふぅー。今日はもうこの辺りで良いかな」


 もう時間的には昼に近くなってきている。

 これ以上出勤するためにここを通る人は居ないだろう……掃除も良い感じだ。


 ぐきゅーる。

 

 掃除道具を片付けていた僕のお腹が鳴る。

 ……今日はまだ朝ごはんとしてそこら辺に生えていた草しか食べていない。


「……玲香が帰ってきた時、すぐに祈りに入れるよう御神体の準備をしておこう」


 お腹は空いた。

 だが、食事を買うお金なんてない。

 僕は鳴り響く自分のお腹の音に気づかないようにしながら口を開く。


『我の像……常に置いてくれても良いのじゃぞ?毎回押入れにしまわず」


「いや、邪魔だから」

 

 僕は空白と会話しながら家の方へと戻った。

 ……これ、僕が空白と話しているの端から見たらヤバいやつだよな。

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