第2話

 半年前。

 両親を含む家族を事故で失った。

 僕を引き取ってくれるような親戚もおらず、天涯孤独の身。

 そして、現在の日本の状況が僕に止めを刺した。

 

 一部の人々に宿る特殊能力である『スキル』の登場によって世界情勢が不安定となり、輸出入の不安定化。

 自国だけでは何もかもを賄えない日本は当然のように信じられないレベルで傾いた。

 それを日本は徹底的な弱者切り捨てを行うことで強引に解決。

 エゲツないほどの死亡者を出しながらもなんとか数十年で国を立て直した。

 しかし、それでも国の弱者切り捨ての政策は変わらず、全人口の2割ほどの犠牲の上で8割ほどが生きながらえている国となっている。


「はぁー」

 

 当然家族もいなく、助けてもらえるような親戚もいないような僕は弱者側。

 金の問題から通っていた高校も中退せざるを得なくなり……今ではカルト宗教の教祖の仲間入り……。


「なんでだよッ!!!なんでカルト宗教の教祖になっているのだァァァァァァッ!?意味が分からぬッ!?」


 質素な朝食を食べ終え、家の掃除中。

 発狂していた僕の耳が自分の家の玄関の空いた音を察知する。


「……うぅん!」


「おはようございます!教祖様!」


「うん。おはよう。玲香」

 

 僕の家に押しかけてきた少女。

 肩まで伸びた黒い髪とパッチリとした大きな目に泣きぼくろがチャームポイントな制服を着た巨乳の女の子、間宮玲香。

 彼女は一週間に一度、人を食べないと禁断症状が出るスキル『食人鬼』を持った少女であり、記念すべき僕の掲げるカルト宗教『救済教会』の信徒一人目である。

 ちなみに人を食わないと禁断症状が出る彼女は定期的にスキル『不死者』を持ち、死ぬことのない僕が食べられてあげることでその症状を抑えている。


「神への祈りは済ませたかい?」


「はい!家で済ませてきました!」


『小娘め……祈りを雑に行うではないのじゃ。もっと丁寧にせんか』


「そうか。それなら良かった」


「だから、今度は教祖様に祈りをささげる番ーッ!」

 

「あっ!?ちょ!」

 

 僕は自分の方へと抱き着いてきた玲香に押し倒され、地面へと背中をつける。


「えへへ。すきぃ」

 

 僕に顔を擦りつけ、女の子がしちゃいけないような顔になっている玲香。

 間宮玲香……良い子であり、僕に好意さえ持ってくれている、我らが教会の信徒一人目という貴重な存在なのだが、如何せん問題が一つ。


「新しい女の匂いが一つ……ねぇ?誰の匂い?これ」


「あ、新しくここの近くに引っ越してきた近所の人だよ」


「ふぅーん……もう、その雌豚と会話しちゃだめよ?教祖様には私一人いれば充分なのだから!」


「は、ハハハ」

 

 ちょっとばかりヤンデレ気質なところがあるところだ。


『ヤンデレ気質どころかヤンデレそのものじゃろう。まったく厄介なおなごに好かれおって……』


 うるせぇぞ。クソ神。

 勝手に僕の記憶を見てんじゃねぇ、ぶっ殺すぞ。


『こ、怖いのじゃ!?』

 

 涙目になる空白を横目に僕は引き攣った笑みを維持しながら玲香の相手をし続けた。

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