第1話
睡眠。
それはまことに素晴らしきものではないだろうか?
現実という最悪のものを忘れ、母の子宮並みに落ち着くお布団様に体を包まれ、体を休める……そんな睡眠ほど素晴らしき行為はこの世界に存在しないだろう。
そんな睡眠を妨害するアラーム死すべし。
『起きるのじゃ!起きるのじゃ!輝夜よッ!』
耳元で僕、霊山輝夜を呼ぶ幼女の声が鳴り響き、脳を揺らす。
「死すべしッ!」
そして、己の耳元で喧しく口を開く邪悪な存在を殺すべく勢いよく腕を振る……が、僕の腕は空振り、宙を斬る。
『神たる我に人間が触れるわけないじゃろッ!カッカッカ』
「ぐぬぬ」
僕の耳元で喧しく騒いでいた邪悪な存在。
それは宙に浮き、どこか神々しい雰囲気を体に纏っている少女。
白い髪に白い瞳に白い肌……そんな白一色の見た目と違って色鮮やかな着物を着ているまだ小学生くらいに見える彼女の名は『空白』。
未だ名も無き神を自称する……痛い奴である。
『ほれ、若人よ。いつまでベッドで横たわり、我の体へと手を伸ばしておるのじゃ。我の肉体が魅力的なのはわかるが、そう興奮するでないのじゃ』
「誰が貴様のロリボディに興奮するかッ!」
『むむ!?それは聞き捨てならないのじゃッ!我は最も美しく、扇情をそそらせるじゃろうがッ!』
確かに。
ただのロリでしかない空白ではあるが、その仕草、雰囲気からはその見た目にそぐわない色気があり、そういう趣味がない人間であっても興奮してしまうだろう。
しかし、僕はこの空白の邪悪さを知っている……こんなカスに僕は興奮出来ない。人は見た目だけじゃないのだ。
「……死ぬカス。ぼけがよぉ」
『や、や、辞めるのじゃ!?シンプルな暴言は辞めるのじゃ!聞いてしまうのじゃ!』
「ハッ」
僕は泣きそうになっている空白を鼻で笑い、泣きたいのはこっちだと一人心の中で毒づく。
いきなり神を自称する謎の存在が目の前に現れ、『我を崇めよ。我を崇める宗教を作り、我を崇める信徒を増やせ。しなければ世界を滅ぼす』そんな物騒なことをって脅しながら永遠と僕について回ってくる僕にしか見えない存在。
幻覚であると信じたいが、目の前で見せられた神の奇跡より幻覚であると思えない……そんな存在を前に一体僕はどうしろと言うのか?
泣きたいのはこちらである。
なんで僕が新興宗教を立ち上げ、目の前の存在を讃える宗教を大きくしなければならないのか……本当に泣きそう。
「はぁー」
ため息をつかなければやっていられない。
目の前にいる神様に脅され、宗教の教祖を始めて早一か月。
ようやく出来た信徒第一号の……問題っぷりを思い出すと同時に僕の前に立ちふさがっている金欠という嫌な現実を思い出し、打ちひしがれながら僕はベッドから出たのだった。
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