カルト宗教の教祖は嘆きたい~神様に脅されてカルト宗教の教祖になった高校中退生は社会不適合者を狙って教徒にしようとした結果……ヤンデレ少女ばかりになったんだが?~

リヒト

プロローグ

 分厚い雲が空を覆い、月光を覆い隠し、雨粒が地面を濡らして様々なものを洗い流す……そんな夜。


「はぁ……はぁ……はぁ……」

 

 誰も居ない暗くて狭い路地裏に息を切らし、雨に濡れてびしょびしょになりながらも走り続ける一人の少女がいた。

 一生懸命足を動かし、走る少女の耳には人の怒号とサイレンの音が届いている。


「あだっ」

 

 走り続ける少女は自分の足元にあった大きな石に気づかず、躓いて転んでしまう。


「いたっ……」

 

 少女が転んだすぐそばにあった水たまり。

 そこには瞳が真っ赤に染まり、口から涎が垂れ、表情が禍々しく歪んでいる……健常な人とは思えない醜悪な少女の姿が映ってしまう。


「い、いやッ!?」

 

 少女は慌てて立ち上がり、視線を分厚い雲の方へと移す。


「……人?」

 

 そんな少女の鼻が香しい人の匂いを感じ取る。


「だ、ダメッ!来ちゃッ!」


「間宮玲香、17歳。高校二年生……スキル『食人鬼』を獲得し、暴走。両親の体を喰らい半殺しにした後、逃亡。その後の行方不明となり……今に至る」

 

 少女の叫び声……それを無視するように近づいてくる人の気配……どことなく怪しげな雰囲気をまとった一人の少年が少女、間宮玲香について語りながら近づいてきていた。


「……うぅ」

 

 そして、少年は口から涎を垂らし、表情を歪め……瞳から涙を流しながら苦しんでいる少女の前へと立つ。


「人を喰らわねば生きていくことの出来ぬ化け物……そう罵られる汝であるが……」

 

 涎を垂らす少女の口へと少年は自分の手を伸ばし……口の中へと入れる。


「あぐっ!」

 

 少女は自分の口に入った人の肉を噛みきり、自分の胃の中へと収める。

 一口……それが少女の中にあった理性のタガを崩壊させた。

 少女は軽く、小さな少年を押し倒し、大きく口を開いてその体を貪っていく。


「我が神はそんなあなたであっても受け入れてくれよう」

 

 腕を食われ、足を食われ、腹を食われ、血を流し……力なく体を地面に横たわせる一人の少年はそれでも言葉を話し続ける。


「あな……」

 

 話し続ける少年の言葉……それは少女に己の顔を食われたことで遮られる。

 

「はぁ……はぁ……はぁ……」

 

 後に残ったのはぬかるんだ地面に染みこんだ血と肉片……そして、少年を食い散らからした少女だけだった。


「あ……あっ……わ、私は……」

 

 少年を食い散らかした少女は体を震わせ、己の醜悪な行いを前に表情を歪め、その黒い瞳より涙を流す。


「何を泣くことがある?悩める子羊よ」

 

 そんな少女に、声がかけられる。

 

「……え?」

 

 確実に少女に食われ……その命を落としたはずの少年が何事もなかったかのように立ちあがり、少女の方へと手を差し伸べていた。


「これより汝は我が神によって救われるのだ」


 いつの間にか止んでいた雨を降らしていた現況である空をふさいでいた分厚い雲が動き一筋の月光が少女の前に立つ少年を照らす。


「汝はもはや一人にあらず。君には僕がいるよ」


 月光に照らされた少年は優しく少女を抱きしめ、その頬に流れる涙を拭きとる。


「……ぁ」

 

 少年に抱きしめられた少女も少年と共に月光が照らし、少女の泥に塗れながらも美しい顔が世界に晒される。

 少女を照らす月光。

 それはこれから訪れる少女の希望を現しているかのようだった……。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る