3 ―過去
僕は、周りに馴染めていたのだろうか。
周りには真の意味で共感できず、言葉だけでは同情と興味を示し、聞きたくない話も、作り笑いで聞いてあげる。そんな自分が周りに馴染めているとは、僕でさえ思えていなかった。
そんな僕が自殺を思い立ったのは、まだ草木の染まる秋の暮れだった。
理由は、特にない。いじめられてもいないし、孤独だったわけでもない。親には何不自由なく育ててもらい、親子関係も良かったと思っている。ただ、生きるのに疲れた、それが最も僕の思いに近い理由だった。
その旨を知り合いや先生に話せば、在りもしない理由を見出すことを促されるだけで、度重なるカウンセリングでさえ、僕の意見に共感することも、肯定することもしなかった。他人に共感しなかった僕が、他人に共感してもらおうと思うこと自体、お門違いなのかもしれない。
ある日、遂に決意した僕は、町の大通り沿いにある、廃墟ビルに足を運んでいた。
廃墟ビルの停止線を越え、屋上に登り、町を眺める。この辺りでは、このビルよりも大きい建物が少ないので、視界を遮るものは無いに等しい。
フェンスを越え、屋上の縁に腰を下ろす。戦ぐ風が心地よく、空は快晴だ。自然の形を保った空は、人の営みに疲れた時に癒しとなる。
「さてと…」
立ち上がり、大通りを見下ろす。
「死にますか。」
「何、してるの?」
一歩前に踏み出そうとした瞬間、後ろから声をかけられる。
「何って、見て分からない?」
声をかけられることがないと思っていた僕は、心底では驚いたが、冷静を装って返答する。振り返ってみれば、そこにはクラスメイトの女子がいた。名前は覚えていないが、確か学級委員長だったはずだ。
「やめなよ。そんなことしても、誰も喜ばないよ?」
「他人なんて知らないよ。」
「ねぇ、今日は止めよ?明日も学校あるし、ね?」
なんで彼女は僕を止めるのか、その理由は分からない。興が冷めた。フェンスを跨ぎ、出口を目指して歩き始める。
「そうだ、買い物に付き合ってよ。」
すれ違いざまに、彼女は言う。断る理由も無かった僕は、何を思ったのかその誘いを受けた。
彼女とはそれきりだと思っていたが、次の日登校した僕に彼女は笑顔で話しかけてきた。そこから彼女との交流が生まれ、度々買い物に行く程度の中にはなった。
アヴニールを紹介してくれたのも、外ならぬ彼女だった。
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