2 ―幽閉

 案内された部屋は、思っていたより広かった。学校の体育館ほどの広さに、白い壁と床。病室の様な無機質な空間に、無数のアヴニールが並んでおり、その様はまるで棺の様で、その静寂に恐怖すらも感じる。

 男に続いて、規則正しく並んだアヴニールの間を歩く。

「こちらが、あなたの入る機体です。」

 白と黒を基調に作られたアヴニールは、酸素カプセルの様な構造で、外にはよくわからないボタンやレバーの付いた装置が置かれている。アヴニールの外装に、何か書いてある。

「これは、なんて書いてあるんですか?」

「フランス語で、オ ルヴォワール。また会いましょう、って意味ですね。」

 何故フランス語なのか、は聞かなかった。製作者がフランス好きだったとか、元はフランスの技術だとか、もしくは理由なんてないのかもしれない。だから聞かなかった。

 男は、アヴニールの蓋を開ける。中には、特に物珍しいものは無く、それこそただの酸素カプセルと変わりない。中に入るように催促され、アヴニールの中に横になる。僕が入ったのを確認してから、男は蓋を閉める。窓はない。

「何か、気になることはありますか?」

 外から、男のくぐもった声が聞こえる。

「特に、何もありません。」

「それでは、アヴニールを起動します。」

 カチッ、という軽い音の後に続いて、ファンの回る低い音が、アヴニール内に響き渡る。

「そういえば」

「…なんですか?」

 ファンの音に紛れて、男の声はあまり聞こえない。

「眠る前に、貴方の名前を聞かせて下さい」

 最後の話し相手の名前を、僕は知りたくなった。

「…私は、カガミと言います。加賀友禅は美しい、と書いて加賀美 。」

「良い名前ですね。…今日は、ありがとうございました。」

 次に僕が目を覚ますとき、彼はこの世にいないだろう。いつの間にかファンの音は止み、僕の呼吸の音だけが、アヴニールの中を満たしていた。

「おやすみ」

 静かに呟いて、僕は大きく息を吸う。意識は、ゆっくりと深い闇へと落ちていった。

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