未来 in the ice.
霜桜 雪奈
1 ―受付
「本当に、良いんですね?」
白髪交じりの男は、多くの書類を前に、何度も僕に確認をする。
「ここに来たってことは、そういうことです。」
「それでも、ですよ。」
確認なんていらない、そう言っても、彼は引かない。あぁ、この人も、そっち側の人なんだろうと、心の中で理解する。
「あなたは、まだ高校生だ。将来もあるでしょうし…」
「だから、なんですか。」
相手を遮るように口を開く。
「将来がなんですか。未来が良いのか悪いのかもわからないくせに、将来があるとか言って。悩んでるのは今なんだ。先を見ろとか、今が疎かな奴に先なんて見れるわけないでしょ!…もっと、考えて話してくださいよ。」
蓋していた思いが、言葉になってあふれ出る。心の隅では言い過ぎてしまったと思ったが、そんな些細な気遣いは、ここ数年で形骸化してしまった。
「そう、ですね。すいません。こちらも少し、配慮が足りませんでした。」
そういうと彼は、手元の書類を一枚、こちらによこした。
「アヴニールの同意書です。あなたの様な方々にこれがいるとは思えないですが、なんせ、私が上司に怒られるので。最後の人助け、と思って形だけでも書いてください。」
アヴニール。僕の様な多くの自殺志願者を救うべくして作られたもので、正式名称は時間幽閉式人体保存機。自殺者増加の一途を辿る中、自殺志願の原因は彼らの生活環境にあるとして、志願者を冷凍保存し、数年後に解凍することで彼らの生活環境を時代諸共変えるという政府の意向の元、作成されたものだ。
紙を受け取り、備え付けのペンで記入欄を埋める。それを受け取り、男は口を開く。
「私にも、あなたと同い年くらいの子供がいましてね。その分、思うところがあるんです。」
僕が何も言わないことをいいことに、その人は話を続ける。大人は、自分語りをしたがる。だからこそ、嫌いだ。自分の過去の話を種に、生きていたらいつか良いことがあるで締める。結局は自慢話だ。
「あなたはどうでもいい、なんて言いそうですが、あなたの親御さんは、あなたに生きていて欲しいと思っているはずさ。」
「…どうでもいいです。他人の気持ちなんて。」
僕の返答に男は苦笑しながら、手元の書類を整理する。
「同意を確認しました。保存期間は、何年にしますか?」
男は机に貼られた紙を示す。そこには、アヴニールで眠る期間について、ポップ調で書かれている。
「八十年で。」
「了解しました。それでは、案内しますね。」
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