第7話「私の最期の、その時まで。」

勇者:君は普通の女の子だなんだよ。

魔王:……だとしても、それでも、我は、魔王!

勇者:違うんだ、君は!

魔王:違わない、何も!そして、そして貴様は不運にも、けほっ、勇者なのだ、その役目を果たせ!

勇者:レイラ!

魔王:――ダークネス・フレイム!

勇者:っく……!

魔王:人々の不安で眠れぬ夜と貴様の長い旅を終わらせろ!勇者!

勇者:知ったことか!

魔王:お前が私を殺せないというのなら、

勇者:……!?

魔王:私が、しっかり、この世界を終わらせないと。

勇者:よせ、やめろレイラ!

魔王:たとえ、このか細き命を全て闇の炎にくべたとしても!

勇者:もうとっくに、その身体は!

魔王:なら、私と一緒に死ぬ?死んでくれる?

勇者:そんなの……!

魔王:ごめんね、ニコロ。

勇者:……っ!?

魔王:――この世の理、幾千幾万過ぎゆくは死を忘却せし屍共の果て無き葬列。

勇者:レイラ!っく!

魔王:地獄は溢れ、尽き得ぬ災禍、醜悪なる混沌が世界を覆う。

勇者:――終わりなき絶望の底揺蕩う我ら、無慈悲なる死の神に抗って列を為し、降り掛かる厄災と心侵す虚無を払い、それでも斃れ、もがき苦しみ、渇望し、惑い、時に諦観する。

魔王:やがて星無き夜空に二羽の名も無き鳥が舞い上がり、無垢と不浄を混ぜるその羽ばたきにより無辺の闇は満ちる。

勇者:しかしそれで良いのだろうか、世界は昏く、常に死を求める愚者の行軍か。

魔王:茫漠たる暗がりの中、ここに燻るは終末もたらす残焔の灰燼。

勇者:いや、否だ!我は拒絶し打倒する!そして、この瞳が見つめる先は幸福なる世界、心が向かう先はただ温かな光!

魔王:そう我の名は、劫火。

勇者:この剣閃は光無き夜空に灯る一条の希望!そう、いつだって!!

魔王:世界を燦然たる死火で照らす者――!

勇者:闇を振り払うその者の名は――!

魔王:アポカリプス・オブ・ダーク・プロミネンス!

勇者:スターライト・ブレイヴ・スーパー・ノヴァ!


  玉座の間に闇と光が弾ける。


魔王:ニコロ――――っ!

勇者:レイラ――――っ!


 ◇◇


  壁や天井は消し飛び、夜空が見える。

  瓦礫の中に、勇者が倒れている。


勇者:うっ……!っは!?レイラ?!レイラぁ!

勇者:……レイラ。っくそぉ!

  長い間。

魔王:……けほっ、

勇者:レイラ!?どこだ、レイラ!


  瓦礫の下にレイラ。


勇者:この下に、いるんだな、待ってろ、今瓦礫をどけるから!うおぉっ!

魔王:けほっ、

勇者:レイラ!良かった、生きて……!

魔王:……かはは、見事だ勇者よ。

勇者:見事?なにも、見事なんかじゃ無い、こんな結末、僕は望んでなかった!

魔王:けほっ……、そ、う、でも我は、わたしは、これで良かったと、けほっ、思うのです。けほっ、

勇者:レイラ……!?

魔王:さぁ、私にとどめを刺、けほっ……して。

勇者:い、嫌だ。

魔王:分かって、いるでしょう?あなたは、勇者で、私は魔、けほっ、お、っけほ……。あれ……?ふふ、ふ、言えなくなって、しまいましたね、けほっ、

勇者:もう喋るな、レイラ、

魔王:いいえ、っけほ……。今、喋らないと、もう、あなたと話す機会、も、ありませんか、ら……。

勇者:そんな弱気になるなよ、レイラ!お前は魔王だろ、偉大なる先王ノヴァリス・ヴォルフ・シュテオロ・ファウストゥス自慢の娘だろ!?

魔王:あれ、自慢、だなんて……、言いました、っけほ……っけほっ……。

勇者:お前があれだけ自慢した親父だ。可愛い娘を、世界に代えても守りたかった。幸せを願った娘を、大事に思ってなかったわけ、無いだろ?

魔王:そ、う、ですね、ふふ、けほっ、嬉し、い……。

勇者:……。

魔王:……ねぇ、勇者さま、けほっ、

勇者:なんだよ、魔王?

魔王:似て、います、ね。

勇者:似ている……?

魔王:けほっ。お父様、に。

勇者:……!

魔王:ふふ、やさしくて、あったかくて……。

勇者:それ、勇者的にどうなんだろ……。

魔王:けほっけほ、不名誉、ですよね、

勇者:まぁ。

魔王:……。

勇者:でも、勇者じゃなくて、

魔王:……?

勇者:レイラという女の子に出会った、一人のニコロ・マルフィ的には、なんていうか、嬉しい、かも、知れない。うん。

魔王:ニコロ……!っけほ!けほっ……!

勇者:レイラ!?

魔王:うん、だいじょう……ぶ、では、けほっ、無いで、す、が、はぁ……っ。

勇者:落ち着いて、そばに居るから。

魔王:ずっと、一緒にいてくれる?

勇者:ず、ずっと?!

魔王:最期の、けほっけほっ、

勇者:レイラ、

魔王:私の最期の、その時まで。

勇者:……!うん、いるよ、僕は君のそばに。

魔王:ありが、とう、でも、

勇者:でも?

魔王:どう、して?

勇者:それは、

魔王:けほっ、それは……?

勇者:勇者、だから。かな。

魔王:どういう理屈、です?

勇者:魔王の最期を、見届ける。的な?

魔王:ふふ、なにそれ、

勇者:はは、自分でも変だと思うけど、これは僕にしかできないことだから。

魔王:ニコロ……。

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