第4話「……なんか、心が痛い。」
魔王:けほ、余裕のよっちゃんです。
勇者:いや、なにそれ?
魔王:四天王、ベストマスキュラー・ゴリアテの口癖でした。……気さくな方でした。「このくらい余裕のよっちゃんでさぁお嬢!」って。
勇者:いたな、そんなん。お嬢?
魔王:それにハンカチは持ってます。けほっ。
勇者:そういう問題じゃ無いと思う。
魔王:あれ?既に血が……。
勇者:もう、僕の使えよ。
魔王:え、よろしいのですか?
勇者:よろしいよろしい。吐血してる女の子――魔王見てるよりずっと。
と、ハンカチを渡す。
魔王:けほっ。ありがとうございます。
勇者:いいよ、別に。
魔王:あの、恥ずかしいので、後ろ向いてて下さいますか、勇者さま?
勇者:あ、ああ、すまん!
勇者、後ろを向く。
魔王:いえ、お気遣いありがとうございます。
勇者:……あれ。本当に背中向けて良いのか?ハンカチ渡したこの距離で?相手アレでも魔……王かどうかは怪しいけど。
魔王が口元を拭っている。
勇者:まぁ、いっか。
魔王:勇者!けほ。もう、いいで、けほけほっ!
勇者:無理して大きな声出さなくて良いよ!
魔王:……ふふ、名乗りも済んだところで、戦いましょうか、勇者よ。
勇者:え、今の名乗りおっけーなの?!
魔王:どうしたのだ?
勇者:いや。
魔王:さぁ、剣を抜きなさけほっけほっ。
勇者:抜けるか!
魔王:ど、どうして、やっぱり私が魔けほっ王として不甲斐ないからですか!?
勇者:その通りだけどそうと言いづらい、何だこれ!?
魔王:私達――我らは、戦う宿命なのけほっだ。さぁ剣を抜きなさけほっ、抜け勇者さま!
勇者:かわいいやつ出てるよ!
魔王:はぁ、はぁ。
勇者:こんなん戦えるわけ無いだろ!
魔王:どうして!
勇者:結構色んな話聞いちゃって、もうお前のこと魔王として見れなく、というか最初から一度たりとも魔王としてなんて見れて無い!無理。戦えない。
魔王:はぁはぁ、そ、そんなこと言わずに、勇者さ……あ!
勇者、踵を返す。
魔王:ちょっと、
勇者:じゃあな、魔王。
魔王:何を、けほっ、帰ろうとしているのだ勇者けほっ!
勇者:帰るしか無いだろ、こんなん。
魔王:倒すしかないでしょう、けほっ!
勇者:もう、魔王退治とか、微塵もやる気無いって。
魔王:何、やる気が失せた?っけほ、そのくらいのことで帰ると?!
勇者:別に世界が大変なことになりそうな気もしないし。
魔王:そんなことで勇者としての志を捨てるなんて!けほっけほっ。
勇者:そのくらいって言うけど勇者的にはこれ、かなり大きめのショックだったんだよ!
魔王:でも簡単に諦めるなんて、これだから最近の若い勇者は!けほっ!
勇者:確かに僕――俺は最近の若い勇者だけど、最近の若い勇者の中では比較的まともな方だと思うよ?
魔王:んんっ。「よろしいですか?己をまともだと認識している者は大抵信用できませぬ、人は誰しも己が狂気から目を逸らしてはならぬのですぞ。姫」って、四天王のマッチョ・ザ・ゴリゼンヴェイツェルが言ってました。
勇者:いたな、そんなの。めっちゃ強かったわ。というか多分、見た感じお前も若いだろ。魔族の基準がどうかは知らんけど、言わせてもらうなら、最近の若い魔王はって感じだよ。
魔王:確かに、そうかもしれませんけど、今は関係が、けほっ!
勇者:ちなみにいくつなの?
魔王:私ですか?十六です。
勇者:十六!?ほぼタメじゃん。というか年下!?
魔王:えっと、あなたは?
勇者:僕は十七だよ。
魔王:そうなんですね!勇者さまは一つお兄ちゃんでしたか。
勇者:お兄ちゃんとか言うな!……というか、そうか、十六で魔王になって先長くなくて……あぁぁ。なんか、だめだ、これちょっと、きつい!
魔王:……あ!じょ、女性にいきなり年齢を訊くなんてふしだらです!!「いいかしらぁんレイちゃん?そういう男には近づいちゃダメよぉん?」って四天王のマスラオ・金剛力士が言ってました!
勇者:いたな、そんなの。キャラ濃かったわ。
魔王:これだから最近の若い勇者は!
勇者:いや、今更だし、訊かれて答えるのも駄目じゃない?
魔王:はっ!?確かに。
勇者:俺もちょっと聞かなきゃよかったって思ってるけど……。お前、魔王の癖に基本的に、警戒心無いよな。
魔王:うぅ。私ってけほっ。ほら、こんな感じだから箱入り娘なのです。
勇者:言ってたな、外に出たこと無いって。
魔王:それに、周りの殿方なんてパパ、じゃなくて先代魔王か、親戚――四天王か、執――側近くらいのものでして、同年代の殿方と接したことも無いのです。
勇者:もうあえて突っ込まないが、それは狭い人間関係だな。寂しかったりしないのか?
魔王:えぇ、みんな優しかったので。……まぁもう全員死んでしまったので、私一人になってしまいましたけどね。
勇者:うっ!
魔王:あはは、けほっ、けほっ!
勇者:……なんか、心が痛い。
間。
魔王:そして私自身、もう長くありません。
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