第3話「へへ、余裕のよっちゃんです。」
勇者:いやいやいや。余計なことは考えるな、ニコロ・マルフィ。目の前の魔王を倒す。それが勇者の使命じゃないか!よし、
魔王:勇者?
勇者:話はもう終わりだ、魔王。
魔王:もう、おしまいなんですね……。けほっ。残念です。
勇者:しゅんとするなよ!?僕――俺たちは戦う宿命なんだぞ?
魔王:宿命……。そう、ですよね。んんっ。では、今度はちゃんと名乗りますね。我こそは魔けほっ……魔けほっけほっ……あれ?
勇者:……はぁ。あのさ、言いにくいんだけど、もうそれやめとこうぜ?
魔王:どうして、けほっ!
勇者:いや、今のとこ魔王って一回も名乗れてないもん。
魔王:っは……!
勇者:さっきから「魔王」がその咳き込みの引き金になってるもん。
魔王:っは!
勇者:名乗らなくても「あなたは魔王ですか?」「YES」でもう良いじゃん。
魔王:それは!
勇者:なんか、正直その、見てられない。
魔王:私が、けほっ。み、見苦しいのは承知で、す……!けほっけほっ!
勇者:あーあー!
魔王:これは、魔けほっけほっの矜恃なのです。
勇者:自分を魔けほけほ。としか言えてない魔王に果たして矜恃がありや否や。
魔王:そんなこと言わず、ほら!見て下さい、今私ちょっと調子、良くなってきましたから、ほら!次こそは、いける、いけっ……けふ。いけます。
勇者:いやどこが?ちょっと出そうになってるよ?
魔王:そん、な、ことありません、はぁ、はぁ。……ね?大丈夫。これじゃダメ、ですか?
勇者:いや、ダメだろ。なんか死にそうになってるし。
魔王:そ、そうですよね、私なんて、全然ダメ……死んだ方がいいですよね。けほっ、けほ。
勇者:いや、死んだ方が良いとかは、
魔王:どうして、どうして?けほっ……。
勇者:な、何が?
魔王:どうして、私なんて生まれてきてしまったのでしょう?
勇者:……!
魔王:生まれつきこんな身体で、役立たずで、魔けほっ、王の、んっ、私はお父様の面汚し……!あぁ、ごめんなさい、お父様。
勇者:えっと……。
魔王:私なんかじゃ、偉大なお父様の遺志を継ぐことも、ご恩を返してあげることも……!けほけほ……うぅ……。きっと私なんて、いない方が良かった!
勇者:おかしいなぁ、僕――俺、魔王退治に来たはずなのに、なんでこんな気持ちになってるんだ……?
魔王:そしたらもっと、世界は平和だったんです、
勇者:「お前はこの世界にいちゃいけない存在なんだ!」みたいな台詞、魔王に言おうとしてたんだけど、うん。言えるわけないな。
魔王:しかも、敵である勇者にまで迷惑かけて、
勇者:いや、別に迷惑とかそんな、んじゃ無い、と思う、けど。
魔王:私、魔っけほ、魔……けほっ!魔、けほけほ。……失格です。
勇者:……失格だとは思う。名乗れない時点で、多少はね。
魔王:けほっ、んんっ。うぅ……っく……。
玉座の間に魔王のすすり泣きが響く。
勇者:あー。いや、その……あのさ、そんな思い詰めなくても良いんじゃ無いのかなって、思ったり……思わなかったり。
魔王:えっ……?
勇者:まぁ色々さ、ハンデとか抱えてても、その、自分のやりたいこと、やらなくちゃいけないことのために頑張るのって、その、良いこと、というか、
魔王:けほっ。
勇者:かっこいい!んじゃないかな。
魔王:かっこいい?
勇者:っていうかさ、違うな、その……素敵?
魔王:す、素敵……?
勇者:的な……ああー!僕の語彙!そ、それは置いといて!
魔王:えぇ?
勇者:何でもかんでも背負い込みすぎても仕方なくね?まぁ僕――俺も、人々の命運とか希望とか師匠の遺志とか、色々全部背負い込んでここに立ってるからあんまり人のことどうこう言えないんだけどね。
魔王:……。
勇者:取り敢えず。失格とか、いない方が良かったとか、そういうのは……考えなくても、その、良いと思う!……かも知れない、というか、あー!なんて言うかその、元気出せよ。魔王?
魔王:……!
勇者:はー!なんだろ。勇者的にどうなんだ、この台詞。
魔王:私のことを、魔けほっ王と?
勇者:当たり前だろ?
魔王:ありがとうございます!勇者さま!
勇者:……。
魔王:あ、……勇者よ。
勇者:なんだかなぁ。
魔王:んんっ。あ、あー。よし。
勇者:もういい?
魔王:はい!
魔王、深呼吸。
魔王:……!我は!けほっ、けほっ……!うっ……!魔!けほっ。王、けほっけほっ!けほぉっ!!
勇者:だ、大丈夫か!?
魔王、吐血する。
魔王:……あ、血が。
勇者:ちょ!
魔王:あ、勇者さま、ごめんなさい。人前で血を吐くだなんて……けほっ。私ったら、はしたない。
勇者:いや、はしたないとかじゃなくて、それ大丈夫なのかよ!?
魔王:大丈夫、で、けほっ。慣れ、てますので。
勇者:慣れてるのかよ……。というか結構出てるぞ、それ……!
魔王:へへ、余裕のよっちゃんです。
勇者:余裕のよっちゃん……?
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