第40話
秋葉原駅、電気街口徒歩8分の大衆居酒屋、鶏王族。
牧田は、松坂副社長本人から聞いた今回の騒動の成り行きを野口に伝える。
松坂副社長を会社に残すのは、社長の強い意向があり最初から会社の裏組織は動いていた。
しかし、悪徳弁護士がどこの事務所の誰か、という情報だけは、鶴安商事側の人間に伝えておらず、把握するのに手間取っていた。
弁護士は、何かあった時に、鶴安商事を訴えるための最後の保険だから、さすがに悪いことをして時代の波に乗ってきた男は慎重だった。
そして、会社がやっと掴んだときには、すでに北野から弁護士が離れていた。
松坂副社長には牧田が直接交渉をしたことは伝えられておらず、「本当に神様っているんだと思った」と言っていた。
「なんであんた、会社よりも早く弁護士割り出したのに、私に教えたの?」
そもそも、野口が、さも会社が情報を掴んでいるように牧田に伝えたから急いで動いたのだ。
「・・・うっかりだよ。まさか、あんな猪みたいに特攻するとは思わなかったから・・」
牧田は自分が役に立てて本当に良かったとお礼を言う。
そして、今日はそのお礼にどこでも奢るわよ、と言ったら、野口は鳥王族と言ってきたのだ。
コーラハイボールが意外と美味しいことを牧田はこの日初めて知った。
グラスの水滴はまだ少しなのに、中身は1/3になっている。
「それにしても、松坂副社長、本当にいつも紳士で素敵なのよ。この前も。
もう少しでキモ豚ハゲとホテルに行くところだったのを、松坂さんの神のようなタイミングで職場に戻れって連絡来たのよ。
まるで私を守ってくれてるみたい。」
「・・へぇ。そうかよ」
「危なかったわ~」
うっとりした顔で焼き鳥を見つめる牧田と、それをジト目でみる野口。
「お前、確かにあのとき目がヤバくて、オウ◯みたいに暴走してたからな~
本当に危ういぞ、俺が」
「まぁ、ちょっと今回は反省してるわ~」
都合が悪いことを言われる前に、言葉を被せてホホホ、と笑う。
野口は、こいつ、ほんと誰か殴ってくんねーかな、と呟く。
ジヨッキのビールはすで温くなり、炭酸が抜け、不味い水になっている。
「あら、スマホ為ってるわよ!」
話題を変えるために、テーブル端に置いた野口のスマホの着信を指摘する。
野口はロックを解除し、
「あ、かーちゃんだ」
母親からのラインには、
『まっちゃんが、部下を守ってくれてありがとうって、あんたに伝えてだって。
偉いわ!明日はステーキね!』
まっちゃん、松坂副社長と野口の母は、同期入社の40年來の友達だった。
今回、牧田が血走った目で出ていったのが気になり、母を通じて松坂に救援をお願いしたのだ。
牧田が自分の言うことを聞くはずがない。
役員が、顔も知らないいち社員からの情報など鵜呑みにするわけがない。
だから、母を頼ったのだ。
だが。
「ぼんじり最高ね~」
初めて来た鳥王族に感動して、浮かれている彼女は、そんなこととはつゆしらず。
副社長も、あえてそこに触れていないようだ。
(まぁ、いーけどよ・お気楽なもんだ)
せっかくの奢り、その日はいつもより多目に飲食して、うさを晴らした。
※
翌日、野口が二日酔いで出社すると、玄関の所で知らない高齢の男性が待っていた。
なんと、松坂副社長本人だった。
わざわざ野口に直接お礼を良いに来たのだ。初代ちゃんの息子さん、成長したね、と。
びっくりして、はぁ、と生返事をするうちに、会話が終わり去っていった。
やはり、役員になる人はちげーな、と思い、自分のよれよれのスーツを反省した。
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