第38話
次の日、iyahhoonニュースでは、鶴安商事の過去の不祥事、談合疑惑が掲載されていた。
コメント欄には、「社長が責任を取るべき」だの「会社の体質が腐っている」だの、好き放題書かれている。
ちなみに、このようなニュースは、社員はプレスリリースされて初めて知ることになる。
牧田は、過去の談合の件に関わったことがあり事実を知っている。
(会社が対処する前に掴まれて、ピンチの時にライバル会社にカードとして出されたの?)
更に運が悪いことに、松坂副社長の顔写真まで出ていた。
見たことがある群馬の温泉旅館で、ザ・談合という写真だった。
これでは、言い逃れはできない。
最後、松坂副社長がなんとかならないか・・・。
奈津美を通して、社長の息子に話して貰えないか・・。
奈津美に連絡したが、「今、急な仕事で立て込んでいて、またこちらから連絡します」とのことだった。
副社長は今、社長室にいてドアを閉めて密談している。
牧田は、自分の責任戻りパソコンを開く。
社用メールを開くと、大量に来ているが、ここ最近は重要なものしか開いていない。
優先度の低い古いメールを流しで読んでいく。
「ん?」
初めて野口からのメールがあることに気づく。
八つ当たりで飲んだのが、まだ数日しかたっていないのに、1ヶ月前のことのようだ。
(お礼してなかった・・秘書として失格ね。)
一応、愚痴に付き合って貰ったため社会人としての最低限のお礼を送る。
すると、間髪入れずに、返信への返信が来た。
『お前が荒れている件について、協力者募集中』
なるほど。会社はなにかしら動いているらしい。奈津美が忙しいのも、その案件かもしれない。
とにかく、知りたいし、お世話になった福茶長のために何かしたかった。
『夜、19時以降、どこ行けばいい?』
『神奈川支社の入り口に来い』
今は東京本社ビルにいるが、神奈川支社なら、電車で30分で行ける。
『分かったわ』
すぐにいつもより早めに帰ることを上司に告げ、18時30分には職場を出た。
デパ地下のサンドイッチ専門店で二人分のサンドイッチを買って、電車に乗り込む。
電車を一回乗り換えて、駅から降りてすぐの神奈川支店ビルについた。
新人研修以来だ。
「よぉ」
約束の時間の10分前に着いたが、野口は玄関に来ていた。
「あんまり目立つなよ」
無理なことを言う。
普段見ない本社付きの美人秘書が玄関にいたら、立っているだけで目立つに決まっている。
二人は無言で神奈川支社の裏通用口から入り、業務用エレベーターで地下に下った。
ビルが古く、廊下の照明は明らか白熱電球だった。
LEDに慣れた牧田にとっては、廊下全体がとても暗く感じる。
地下1回の奥の部屋に通されると、意外と広くて明るい部屋に、パソコンが3台置かれていた。
「・・ここは?」
「緊急会議用の部屋だな。ここのネットワークは、社内用とは完全に切り離しているし、この部屋は物理的にも安全だ」
「で?」
今の野口の答えでは、まったくこの部屋が分からないから、続きを促す。
「社内にスパイがいそうなときには、本社意外に会議室を設けるらしい。この部屋はスパイ探しと、松坂副社長をなんんとかするために、社内で数人が動いている。俺もだ。」
そこまで聞いて、牧田は奈津美を思い浮かべる。
絶対に動いているはずだ。
「奈津美さんも、もちろんn動いてるのよね?」
「ああ。彼女はかなり前から違う会社に潜入しているらしいぜ」
まぁ、その椅子座れよ、と、野口は牧田にパイプ椅子を勧める。
「・・・こんなこと、私がスパイと繋がってたらどうするのよ・・」
会社から選ばれていないメンバーに勝手に伝えていい内容ではないはずだ。
「あのなー。お前、さすがにこの間の飲みっぷりは酷かったぜ。
スパイだったら、あんな新橋のサラリーマンみたいな絡み方しねーで、ハニートラップしかけるんじゃねーの。」
まぁ、俺はひっかかんねえーけどな、と呆れた目をして鼻で笑っている。
「・・・」
「とにかく、人手がほしいんだよ」
野口は話し始める。
松坂副社長を陥れようとしている新人役員北野は、まだ57歳と若い。
前職は外資系の会社のCEOだった。
牧田は、個人的に名刺を渡されたから知っている。そのときは、妻子があるのに元気なことで、と思っただけだったが。
性欲と仕事のエネルギーは紙一重。
北野は、マスコミに会社のことをリークし、松坂副社長を混乱に乗じて引きずり下ろし、自分がさらに出世しようとしているというのが分かった。
その手足となっているのが、社内に数名いたらしく、社内ネットワークから情報が引き出されていたり、インターネットの掲示板に社員しか知り得ないことが投稿されていた。
先週までは、野口がネットワーク関連で目星をつけ、総務三課がその裏付け調査をしていた。
さらに、北野には、超敏腕悪徳弁護士がついているらしい。
亀安商事にも顧問弁護士と一緒に、今策を練っている。
弁護士と交渉するために、今、奈津美達総務第三課は、社外に潜入しているらしい。
「でも、弁護士だけやっつけても、北野は尻尾出さないんじゃないの?」
牧田は、長くなりそうなので、買ってきたサンドイッチとコーヒーを渡す。
すでに20時過ぎ、自分がお腹がすいたためだ。
野口は受け取りガツガツ食べながら話す。
本店は表参道で有名なサンドイッチなのだから、大事な話をしながらではなく、もう少し味わって感想ぐらい聞きたいものだが、この男にそれを言っても仕方がない。
値段の割りに野菜しか入っていないとか言ってきて、ムカッとしたが、自分が食べたかっただけだ、と割りきった。
「松坂副社長も、なかなか狸だな」
「え?」
「北野の弱み、いいのを知ってたぜ。
役員に入れるときに、脛に傷のある奴の弱み、いざというときのカードを持ってるんだからな」
普段の松坂副社長は、おっとりした良爺だ。
秘書として何年もお供しているのに、牧田にはそんなところ、一回も見せたことはない。
「まぁ、そんな顔するなって」
牧田は、表情のコントロールを放棄し、苦い顔をしていた。
(なんか・・悔しいな。信頼されてないみ
たいじゃない)
「とにかく、こっちにいいカードがあれど、北野のタイミングのセンスもいいしな。悪徳弁護士との交渉がまだだから、勝率は五分五分。
いかに早くこちらが準備して、交渉を持ちかけるかが大事らしいぜ」
「で?なにするのよ?」
「北野の過去のインサイダー取引疑惑の裏付けだ」
前の会社の仲間には、すでにプロのハニートラップをしかけて、証言だけは取れている。
奈津美が前職の会社に潜入し、データをこちらに送っている。
そのデータを野口が目をさらにして見ているが、目が足りない。
そこで、牧田に以来したのだ。
「上司を通して依頼するか?」
「不要。プライベートの時間でお手伝いするわ。」
(松坂副社長は、私に知られたくないのだから。)
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