第33話


進藤竜二のキラキラ系の先輩、田辺優輝の想い人を捜索することになった奈津美と竜二。




次の日から業務の間のおサボり時間を使って、探ってみることにした。


奈津美はまず、総務第3課にある指紋採取キットを使って、食堂のポイントカードの指紋をとる。


横領の調査などでは、この指紋採取キットが役に立つのだが、まさかこんなピンクな理由で使うとは思わなかった。




そして、奈津美の持つ最大の情報網、庶務ネットワークの水野舞子に依頼をする。


メールではなく、竜二とともに、きちんと会って説明をした。


舞子は協力に躊躇しているようだ。


「だって、女性って、好きだったらちゃんと連絡先残すわよ。


あんまり詮索されたくないんじゃないのかな?」


(舞子さんはいつでも優しい・・)




「私もそう思います。けど、何かしら理由があって、何も残せなかったのかも・・」


「・・シンデレラって訳ね。一応その日やった合コンを探ってみるわね」




そして、翌々日には、合コン当日に、社内女子がメインで参加していた合コンが全社で10件だったことがわかった。


舞子が言うには、鶴安商事の女子が複数人いるケースがその10件に当てはまり、女子が単発で社外の合コンに参加している場合は分からないということだった。




まずはこの10件に参加している、約40名の顔写真を人事名簿から拝借し、田辺に見て貰う。




「どうでしょうか?」


終業後にファミレスで食事をしながら見せる。




髪型等の特徴が近い人から順番に見せたが、反応が悪い。


「・・・・いない・・もっとこう、優しくて聡明そうな」




(酔ってて思い出の美しさを3割増ししてるんじゃないの?)


進藤の方をジトッと見ると、進藤はまぁまぁ、とテーブルの下で手をジェスチャーする。




すると、田辺のスーツの胸ポケットから、ピリリリリと電子音がなった。


社用携帯だった。


「はい・・・え?あ!もうやってくれたの?・・正直無理だと・・うん、ありがとうございます、はい、失礼します」


そう言って、電話を切る田辺。




「大丈夫っすか?」


「おう、急ぎの案件、経理の子がかなり頑張ってくれて、なんとか取引うまく行きそうだよ」


「もう21時、経理も大変ですね」


その経理の子はたぶん今までやっていたのだろう。定時上がりの奈津美は大変、という感想しかない。




「経理部は、産休・育休でなかなか人が安定しないけど、今の担当の子は本当によくやってくれるんだ」


「そんな子がいるんですね~」




結局舞子のネットワーク網でも引っ掛からず、振り出しに戻ってしまった。




次の日は、仕方がないので聞き込みを行う。


合コンは、金曜日の18時00分から開始だった。


店は近かったが、定時が17時30分の鶴安商事を考えると、恐らくトイレで化粧を直したはずだ。




トイレにはさすがに防犯カメラはついていないため、トイレ掃除のおばちゃんに聞き込みをするしかない。




奈津美は、その日のトイレ掃除のおばちゃんのシフトを手に入れ、各フロアの担当者に聞き込みを行った。




「んー、そうねぇ、金曜日の夜は、女子トイレって混むのが普通よ?」


おばちゃんは言う。


(そりゃ、金曜は彼氏の家に泊まるのに、ちょっとは身綺麗にしていくか・・)


奈津美には縁がない話だが、理屈としては納得する。




「あ、でも、珍しい子が着替えてたから、ちょっとおばちゃん覚えてる」


「珍しい?」


「そうそう、いつもは大人しい子が、トイレの中で、服全部着替えてたのよ


ちょっとセクシーな感じな服。女の戦闘服って感じで、おばちゃん、ぐっときちゃった」


「・・・はぁ、ちなみにその子は?」


「うーん、あんまりパッとしないし、トイレで友達としゃべるような子じゃないから名前までは・・。夜遅くまで仕事してるわよ」


「・・・・今度、一緒に執務室掃除行ってもいいですか?」


「ええ、もちろんよ!そのとき教えるわ」




おばちゃんが昼間の執務室掃除のシフトの時、奈津美は見習いの振りをして一緒について回る。もちろん掃除のおばちゃんの格好だ。




そして、フロアの半分を回ったときに


「あ、ほら、あの子!」


おばちゃんが、木の影にかくれて、一人の女子社員を目線で示す。


「あの、眼鏡で黒髪を一つくくりにしている人ですか?」


「そうそう」


確かに、化粧も薄く、服も白のシャツとグレーのパンツで、全く飾り気のない普通の地味な女子だ。


あの子がトイレで変身したら、おばちゃんは気づくだろう。




座席表から名前を確認し、奈津美はその場を去る。




さすがに可能性は低いかもしれないが、黒髪の色白、ほっそりは当てはまる。


人事部名簿の顔写真を、念のため田辺に見せる。




「・・・堤さんって、こんな子だったんだ・・」


「知ってる人ですか?」


「あ、いや、この間話してた経理の担当の子。いつも電話でやり取りしてて、顔を知らなかった」


「声とか知ってたら、さすがに分かりますよね」


「酔ってても、先輩なら分かるでしょう」


「・・・うーん、いや、でも・・雰囲気が・・」




今までで一番反応があるが、確信がないようだった。




「会ってみてはどうでしょうか」


奈津美は提案する。


このままでは、ダメだ。


というか、田辺は幻を観ていたのではないか。


早く解放されたい。




「いや、堤さんには普段お世話になってるし、そんな俺の情けない話できないよ」




(あほか!)


心の中でげんなりする奈津美。竜二ですら半笑いになっている。




社用携帯の呼び出しで田辺は急いで去っていった。




「進藤くん、どうするの?このままだと永遠にシンデレラ探しに付き合わないといけないよ!」


奈津美は竜二に非難の目を向ける。




「ごめん、あんな先輩初めて、ちょっと男らしくないよな」


「はー、どうしよう」


「あの様子だと、ちょっと心当たりありそうだったよな~」


「だ、か、ら、さっさと会って欲しいのに!もー!」


「焼き肉」


「高級焼き肉のコース」


そう、もう堤に直接確認するしかない。




奈津美は高級焼き肉のコースで手を打つことにした。




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