第20話


懐中電灯を持って、進藤、貫田、奈津美の順番で階段を降りる。




階段はすぐに終わり、小さな部屋があった。


真っ暗な中を照らすと、3人は息をのむ。




そこには、金の延べ棒が綺麗に並べて置かれていた。


延べ棒数は、ランドセル3個分くらいの量があった。




奈津美には延べ棒1本の価値が分からないが、とんでもない、十億はあるのではないだろうか?




「本当にあったんだな・・・」


「これは、凄すぎる」


3人で、金の延べ棒を持ってみる。


「思ったより重いね」


と平民な意見を貫田が言う。




「課長、これで家のローン返せますよ」


なんて、冗談を言ってみる。




「ところで、どうして耳を当てたら開いたんだ?」


進藤が奈津美に聞く。




「夏の鍵って、結局どこにもなかったでしょ。


で、聞くって字を思い出して、何かないか考えたんだよ。


あと、モントレ・アテーヨね。


門をとって、当てよってことかなって。」




「門取れ、当てよ?


ああ、「聞」から門構えをとって、耳を当てろってことか」


勝手に外国人と思い込んでいたが、初代のちょっとしたジョークだった。


初代社長、まぎらわしい。




「で、初代の家族写真を思い出してね。


初代の家族写真、家族の共通点を見て」




貫田と進藤が写真をじっくり見る。




「変わった耳をしているね」


「そうなんです」


貫田の意見に奈津美が頷く。




そう、初代社長の家族は、妻以外、耳が大きく特徴的だった。


上部と下部が膨らんでいて、真ん中にくびれがあり、極端に「3」の字の形になっていた。


そして、それは遺伝なため、進藤の耳もその一族の形だった。




「それで、じいちゃんが俺を指名したんだな」


遺伝があるため、祖父の血を継いでいない現社長の父や兄には開けられない「鍵」となる。




金の延べ棒の上には、紙が置いてあり、初代社長が書いた家訓と、「一生に2度しか開けられない」と書かれていた。


・・・耳だから、左右一回ずつだろうか。




部屋の奥に、さらに机があり、その机の上に猿の置時計がもう一つあった。


そして、もう一つ驚くものがあった。




「・・え?これ・・」


小学生探偵3人忍者シリーズ 8巻




奈津美は手に取って、めくる。


メモが1枚挟んでいた。




「進藤くんへ 返すのはいつでもいいよ」


というメモだ。


奈津美は自分の字だと分かる。


例え小学校の時の字でも。




「これ、私が小学校の時進藤くんに貸した」


遥か昔の記憶を思い出していた。




なんでこんな本がここにあるんだろう。


奈津美が就職する遥か前から、この部屋に置かれていたことに驚きだ。




本の空白部分に猿のイラストが書かれていた。




奈津美は絶対に本に落書きをしない。




「進藤くん、本に絵書いた?」


「いや、これは・・・母さん、母さんの絵だ」


「え?」




「昔から母さんは絵がうまかったからな。


たくさん書いてくれたんだ」




猿の絵、置時計・・・




「この本は返してもらうね」


「お、おう、俺も借りてたの忘れてたし、悪かった」


「猿の置時計は、物置にでも置いとこうか」




猿の置時計だけ地下の金塊室から引き上げ、鶴の絵の近くに置いておくことにした。




そして進藤は、社長にすべてありのままを時系列で報告した。




奈津美と貫田は他言無用ということで今回のミッションが終了した。




奈津美の手元には、探していた本が返ってきた。

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