第16話
月曜日、奈津美の家に三枝が車で迎えに来た。
進藤家の本邸、つまり社長と社長夫人が暮らす家を調査する。
一応進藤竜二の実家でもある。
社長の家など、本来は会社のトップシークレットだ。家族のことから弱みを握ったり、簡単に暗殺が出来たりする。
奈津美は、自分があまりにも信頼され過ぎているのでは?と思う。
お金持ちの家のイメージ通り、門から玄関は距離が全く見えず、車で少し行ったところで、大きな家がドーンと構えていた。
(金○一に出てくる洋館だよ)
奈津美は今の日本にもこんな家があるのかと、目を丸くした。
家はイメージ的には「コ」の字型になっていた。
コの字の真ん中に玄関があり、左右に分かれて囲むように部屋がある。
ちなみに、玄関の前には噴水と花壇があり、どの部屋からも見えるようになっている。
さらに、少し離れたところに塔があったり、薔薇だけのガーデンがあったり、さすがに本邸は作りが豪華である。
くまなく調べるとしたら1週間はかかってしまう。
しかし、夫人のいない時間は今日しかないため、ポイントを絞って見つけるしかない。
玄関に入ると、「おかえりなさいませお坊っちゃま」と3人の女性の使用人が出迎えてくれた。
「じいから聞いてると思うけど、屋敷をゆっくり調査するから、みんな気にせずに作業してくれ。
こちら、同僚の山下さんだ。お茶よろしく」
進藤はそれだけ言うとさっさと廊下を進む。
奈津美は遅れないように、使用人に一礼してついていく。
客間に通され、まずはケーキと紅茶を頂く。
紅茶が高品質で、めちゃくちゃ美味しかった。
さっそく調査を開始する。
進藤が本邸で季節に関係がありそうなものをピックアップしたリストを作っていたため、手分けして見つけることにした。
絵、庭の花、昔の暖炉、それプラス各部屋の調度品などだ。
春夏秋冬に関するものを見つけていく。
今回は、かなり調査範囲が広いため、進藤と、奈津美・三枝の二班に分かれて調査する。
奈津美と三枝は、社長と社長夫人のプライベートエリア以外の、客室、庭、廊下など当たり障りのない部屋を見ていく。
その間に進藤は、社長と夫人の部屋、バスルームを見る。
別荘では、部屋の名前がヒントだった。念のため、部屋の名前を最初に全部確認するが、何もなかった。
客室はすべて同じ間取りで、ベッドと簡単なサイドサーブル、クローゼット、机と椅子、テレビ、絵と調度品があった。
絵の裏、坪の中、机の引き出しやカーテンの柄等を見るが、今のところは特に違和感がない。
三枝と二人になったところで、奈津美はずっと聞きたかったことを聞くことにした。
「三枝さんは、お宝が何か知っているのですか?」
「私がなぜ知っていると?」
「三枝さんって、先代の社長のこと知ってるでしょ?
何かご存じなのかな、と思って。
先代ってどんな方ですか?」
「奈津美さんは、相変わらず鋭いですね。
先代とは、幼いころから兄弟のように育ち、とても良くしていただきました。」
三枝の家は代々進藤家に家族ぐるみで仕えていて、三枝の母が先代の乳母だった。
本当に兄弟のように育ったらしい。
先代は、とても明るい社交的な性格で、光のような人だった。
当時ではよくある政略結婚だったのにかかわらず、その夫人とも仲睦まじく、理想的な夫婦だった。
しかし、跡継ぎの男の子に恵まれなかった。
当時は愛妾に生ませることも珍しくなかったが、夫人が悲しむことを嫌がり、男の子を養子にとった。
それが今の社長だ。
つまり、先代社長と現社長は直接的な血縁がない。
先代には、夫人との間に愛娘が一人いたが、病弱で既に亡くなっている。
「今は、進藤君が跡継ぎなんでしょう?」
「そうですな。ぼっちゃまには、浩二様というお兄様がいるのですが・・
先代が亡くなる前に、竜二様を指名したのです」
「え?でも、普通はお兄さんですよね・・・」
「浩二様は、芸術肌の方で、会社員が向いていなくて。
今は画家として、瀬戸内海でゆっくり暮らしております。
竜二様のほうが、ずっと跡取りには向いているんです。
まあ、奥さまはまだ諦めていないですが。」
(ああ、それはしょうがないか)
しかし、社長夫人からしたら、自分の息子ではなく他の女が産んだ子を跡継ぎにされてしまい、竜二のことを恨んでいても仕方がないだろう。
「奈津美さん、手が止まっておりますぞ」
「あ、ごめんなさい!次の部屋行きますか?」
次の部屋は2階の団らんの間だ。
「あ!」
部屋に入った瞬間、目にとまった物に、奈津美は思わず声をあげる。
別荘で見た初代の家族写真がある。
別荘では、不自然に桃の間でいなかった猿が載っていた写真なので、奈津美たちは怪しいと思っている。
写真をスマートフォンで写真を撮る。
他に何か季節的なものはないだろうか・・・。
とりあえず、竜二を呼んで3人でじっくり探すことにした。
しかし、部屋には特に季節感のあるものは見つからない。
「そう言えば、今日は庭師が来る日になっておりました。外から呼んできましょうか?」
三枝が思い出したように言った。
「ちょっと気分転換したいな、外行こうぜ」
奈津美も、家を探すことに飽きてきた。外の空気は嬉しい。
正面玄関から庭に出ると、噴水のとなりの花壇に庭師の40代くらいの男性がいた。
「これはぼっちゃまと三枝さん、珍しい」
「ご無沙汰しています松下さん」
進藤が挨拶をする。
進藤と三枝は、挨拶くらいはしたことがあるらしい。
「季節の花、ですか?たくさんありますよ、今だと・・」
庭師の語りは長かった。
庭師松下も代々専属で仕えていて、子供のころからお手伝いで本邸の庭に来ていたそうだ。
基本は、今屋敷に住んでいる夫婦の趣味に合わせるらしい。
「ところで、その中で、初代の時から変わっていないところってありますか?」
暗号は初代が作った。もし庭にヒントがあるなら、古い部分だろう。
「うーん、あまり変わってないはずですが、ひまわり畑はどうでしょうか」
「ひまわり畑?」
「ああ、ひまわり畑は本邸の庭から離れたところにあるので、ここからは見えません。
初代の奥さまがひまわりをお好きで、初代の旦那様は、わざわざひまわり畑を上から見るための塔を作ったのですよ」
庭師が指差す先には、灯台のような塔がある。
「あの塔は、危ないからって入るの禁止されてるんだよな、じい」
「そうですな、耐震工事をやっていないので、このじいもここ20年くらいはいっておりません」
「入れるんですか?」
「ああ、鍵は本邸にはありますぞ」
ちょっと取ってきます、と言って三枝は屋敷に戻り、5分後に鍵と3人分のマスクと軍手を持ってきた。
塔の下までくると、4~5階の高さがあったことがわかる。
ギイ、と何十年も空いてなかっただろう扉が開く。
思ったよりも腐敗などはなかった。
ホコリはたくさんあるが、掃除をすれば人が住めるレベルだ。
中は狭く、最上階までは螺旋階段しかなかった。
スマホの灯りを照らし、階段を上る。
階段を上りきった場所には、重厚な木の扉があった。
進藤がドアノブを回すと、扉はキィという軽い音とともに、あっさりと開いた。
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