第13話

プロローグ

小高い丘の墓地は、春の光に包まれている、


丘の下から心地よい風が空に向かって吹きく。




誰もいない広い墓地の一角に、花と線香を供える老人がいた。




三枝辰夫は、「片岡家」と書かれた墓に手を会わせ、小さな声で墓石に向かって呟く。


その言葉は、墓地に似合わない、祈りのようだった。




「小夜子さま、見守っていてくだされ」




※※※※※




「え?フリマアプリで私の本を出したい?」




山下奈津美は、田舎の母親と電話していた。


大学から実家を出ているが、奈津美の母親は部屋をそのままにしていた。


結婚するまでは、自室のものには手を付けないだろう・・・と思っていたが。




フリマアプリにはまってしまった母親が、奈津美の物を売り出したいという相談だった。




奈津美は、小さい頃から集めた本を思い浮かべる。


恋愛ものの漫画本や児童向けの小説をシリーズ全部買ったのを思い出した。




上京するときに手元に置きたい本は持ってきたため、問題ない。




『なっちゃんに一応聞かないとね。


ああ、でも、「小学生探偵3人忍者シリーズ」が、一冊だけ何処を探しても見当たらないのよ。


全部揃ってないと、まとめ売りできないじゃない?


どこにあるか、知らないわよね?』




「うわー、なつかしい!」


確か、少年探偵3人シリーズは、小学校中学年で奈津美がどはまりした。


仲良し小学生3人組が、忍者の技を使いながら謎解きをする話だった。




だが、全く人に貸した記憶がない。


「ごめんね、全然記憶にないよ。学校に忘れたりして、もうないかも」




奈津美の母親は、がっかりしていたが、奈津美はそんな古いの売れるはずない、と思った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る