第18話 人の想いⅡ AI と人類の戦い 4

どのくらい歩いただろう。

この真っ暗な下水溝を何週間も歩いている。


「いま、どの辺りなんだろうね」


北見が聞いてくる。


外の風景もGPSもなく携帯電話もインターネットも全く繋がらなくなって十数日が過ぎた。ハルカが用意してくれた食料も残り少なくなっている。なにより僕らを悩ませたのは飲料水だった。


「もう少し歩いたら休憩しよう」


僕は提案した。


あのとき、ハルカが連れてきた五人のうち、二人は途中ではぐれて行方が分からなかった。

今残っているのはOL風の菜奈とトラックの運転手をしていた優斗、それから中年オヤジの勇太の三人だ。


「もう、お風呂に入りたい。シャワー浴びたい」


菜奈が愚痴をこぼす。


「まぁ、そこで水浴びすりゃいいじゃん」


傍らを流れる悪臭を放つ排水を指さして笑う優斗を菜奈が睨む。


「しかし、いつまでこんな状態が続くんだ」


勇太が灯油ランプに灯油をつぎ足しながら言う。


「これだけ歩いて下水処理場にたどり着かないということは、おそらく大きく道を間違えている可能性が高いんだよなぁ」


まぁ、それを確かめる手立てがないのが一番問題なんだけどな、と勇太が呟く。


グズる子供をあやしながら北見が言う。


「とにかく歩きましょ。またプラマーに出くわすと厄介だし」


プラマーとは自動配管点検機のことだ。こいつが下水溝を縦横無尽に走り回っていて我々を見つけると見境なく攻撃してくる。


比較的弱いのでバッテリーやLEDなどのパーツ取りには重宝してるが、女性陣と子供たちはこれがとても苦手らしい(外観が髑髏っぽい)のでプラマーがくると僕と優斗、勇太の出番となる。


「とにかく、休憩したらまた歩こう」


僕が残り少なくなったビスケットと水を皆に配りながらそう提案する。


「あぁ、早く外に出たい」


菜奈がそういいながらビスケットを口に放り込む。


「だけど、どうしていきなりこんなことになったんだろ?」


優斗がビスケットを水に浸しながら呟いた。


「ロボットが襲ってくるなんて、映画の中の話だとばっかり思ってたよ」


水を吸ってふにゃふにゃになったビスケットを口に放り込みながら優斗が言う。


「それだけど、あの彼女が言ってた『銀河監視所から来た』とか『惑星シャノンから来た』って話がずっと気になっててさ。色々聞きたいことはあるけどさ、百歩譲ってそれらが本当の話だったとして、そもそも彼女は何が目的で地球に来たのさ」


大きなザックを背負いながら勇太も言う。


「そもそも、なんの前触れもなくある日突然こんな状況になってさ、聞かされる話がみんなぶっ飛んでるじゃんか。そもそも、AI技術が飛躍的に向上したのだってここ数十年の話でしょ?」


最近、何もかもが早急なんだよな。

勇太が呟いた。


――おそらく、そのきっかけを作ったのは僕らだ。


そう言いたいのをぐっと堪えて、僕らも立ち上がった。


それから数日して、何体目かのプラマーを破壊したときにプラマーの型式が異なり始めたことに気づいた。


「なんだかこいつら見た目も行動パターンも違くねぇか?」


勇太が最初に指摘した。

よくよく機体を調べてみると、搭載されている基盤が異なっている。


「これは、たぶん別の施設で使われていた機体だろう。もしかしたら、何らかの施設が近いのかも知れない」


僕は感じていた。


ようやく出口にたどり着けるかも知れない!――


一同はにわかに色めき立った。

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