第12話 バッド・ブレイクスルー2
球体の構造やメカニズムは全くわからない。
分からないけれど、球体へ特定の電磁波を重畳させて打ち込むことでそのテレメトリアンサーバックとでも呼ぶべき信号が球体から発せられるゆえ、それを受信する。
あのユニットには大まかにはそのような機能が備わっているようだった。
球体へ打ち込む信号は大まかにプロット化されていて、どんな信号を打ち込めばどんな信号が返ってくるか、事細かに記述されていた。
「いや、この人本当にスゲーよ」
北見が絶句した。
「だって、この打ち込んでる信号がさ、電磁波と回転磁界とを特定の周波数と強度で制御してるじゃん。こんな複雑な信号パターン波をよく見つけたよ」
石川も驚嘆していた。
「あのモジュールと同じものは作れそうにないけど、ここに記述されてる信号を打ち込める装置を作ればいいってことでしょ? もちろん、いったんはあのモジュールを分解して中にある“球”? を取り出さなきゃだけど」
それに、と宮東も考える。
――球体がどのような技術で作られたか分からないけれど、この一連のやり取りを模倣する信号装置を作れば、ハルカには劣れども似たようなAIが作れるってことじゃないか!
そう考えたら急に色めきだって、更なるヒントを求めてUSBメモリに保存された文献を片っ端から読み漁った。
結局、改めてハルカを分解して問題のモジュールに文献通りの方法で計測器を接続してテストランした結果、モジュールの信号装置が破損しているようだ、ということが分かった。
つまり、このモジュールを修理するか、代替品を製作しなければハルカはもう動かない。3人はそのモジュールの研究と開発に没頭した。
そして更に十数年の歳月が流れた。
その間、モジュールから取り出された球体は大切に保管されていた。
そして、試行錯誤の末にそのモジュールの開発に際して『代替球』も完成させていた。
「まぁ、僕らのは『球』ではなくてSoC(System on a Chip) なんだけどね」
石川がその小さなユニット基盤をつまみ上げながら感慨深そうに呟いた。
「このSoCが技術革新のブレークスルーとなって今日のAI全盛期を作ったんだから、そんな残念そうに言わないの」
北見が楽しそうに言う。
「キミも大したものだよ。その歳でNASO先進AI技術研究所の上席研究員なのだから」
北見を見ながら石川が言う。
「しかし、これでやっとあの『球』をモジュールに収めることができる」
「17年振りにハルカに会えるね」
宮東も感慨に耽っていた。
ハルカが動かなくなったあと、彼女からモジュールを取り外して実体顕微鏡の下でそのモジュールを分解した。それこそ数ヶ月かけて。傷つけないように、構造の記録忘れがないように、慎重に、慎重に。
そうして、着手した季節の次の季節が終わるころ、モジュールから球を取り出した。
初めて見るハルカの魂魄とも呼べるもの。
ハルカそのものを見ているような、本当に形容のしようがない美しい色艶をした小さな球。
それをモジュールを分解するより何倍も慎重に取り出して、強化ガラスで作ったケースに優しく仕舞う。
次にハルカに出会えるのが何年先になるか分からない。
でも待っていて欲しい。
――必ず、絶対にまた会えるから。
僕たちは諦めないから――
そうして、17年という歳月を経て、ついに満足のいくモジュールが完成した。
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