第7話 石の話-6
週末、噂を聞きつけた悪友たちがわらわらと集まってきた。
「なに拾ってきたのよ?」
人形のメモリICの足に様々なプローブを装着したりして、オシロスコープやDC電源の準備をしながら楽しそうに北見が聞いてくる。石川は鼻歌を歌いながらPCのプログラムを操作してメモリICの中身の可視化に挑戦しようとしている。
「んで、モジュール届いたの?」
と聞かれて、宮東は昨日届いたばかりで開封もしていないサウンドセンサーモジュールを北見に渡す。
「まずはICの健全性を確認してから動作確認してみないと」
フンフンと鼻を鳴らしながら、彼女はどんどんICや基盤モジュールに配線をして試験系を構築していく。
と、ふっと手を止めた北見が何かを見つけた。
「なんだろう、この部品。水晶発振器? いや、それにしちゃ足の数多すぎだろ」
怪訝そうに基盤を見つけながら、それでもサクサクとケーブルを接続していく。そしてDC電源の最適な入力レベルを探りながらDDS(ダイレクトデジタルシンセサイザー)信号発生器やオシロスコープを使って駆動クロックを慎重に調べ始めた。
「持ってきたオシロでダメならスペアナ先生かなぁ」
楽しそうに測定器を調整している北見を見ながら、PCを操作している石川に聞いてみる。
「コード解析は後回しでも、せめてファイル開けないかなぁ」
「んー、そうね。なんか画像か映像みたいなデータもあるっぽいんだよな。開けないけど」
そうは言いながら、やはり石川も楽しそうに画面を食い入るように見つめている。
「これ、持って帰っていい?」
日もどっぷり暮れたころ、石川がやっと画面から顔を上げて言った。
「こりゃ、時間かかりそうだわ」
ファイルが開けたら連絡すんよ! そう言って石川は帰っていった。
「北見はどうするの?」
宮東が尋ねると、北見は躊躇なく元気に答える。
「あたし? も少しやってくよ。だから夕食おごって」
まぁいいやと、宮東は親父に頼んで出前でラーメンとチャーハンを頼んで部屋に届けてもらう。
「なんだ、女の子とふたりきりか?」
などと真顔で尋ねる親父に適当に手を振って、冷蔵庫からジンジャエールを取り出して部屋に戻る。
冷えたジンジャエールを北見に渡すと、プシュっと音がするやいなやジンジャエールを一気に飲み干して北見が言った。
「この基盤、なんかおかしいよ。よくわかんないんだけどさ、動作クロックとか発信するモジュールが見当たらないんだよ。だけど外されたんじゃなくて最初から無かったみたいなんだよね。つかこの回路さ、タイミングとかオフセット電圧とかなんも調整できないんだよな」
「例えるなら、素人がそれっぽく見えるようにICとか素子を基盤にでたらめに組付けたみたいな感じなんだよ。石川がいじってたコードだって見たことないし。あたし的には動くはずないんだよね、この基盤」
「だけど」
興奮して少し赤くなった顔を基盤に向けたまま、北見は続けた。
「だけど、気になるのはこの水晶発振器みたいなモジュールなんだ。これ、外観は似てるけど全然違う。色々調べたけど中にクォーツ入ってないよ。でもさ、なんか発信してるんだ。物凄い数のクロックが重畳した感じの信号? を出してる」
ふーん、と北見の話を聞き流しながら、宮東には少し人形が不気味に見えてきた。
――本体そのものは柔和な顔立ちをしていて、首回りや胴体に簡単なハニカム構造の駆動部が収まっているだけの一見普通の玩具なのに。
元の持ち主はいったいこれで何をしていたのだろう?――
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