第6話 石の話-5

 眠るような顔で、堤防に男が倒れていた。

 傍には荷物が満載の自転車。


 ぶら下げられたネームプレートには『翔』と書かれていた。


「どうしました?」


 釣りに来た少年が顔を覗き込む。

 そこには、すでにこと切れていた男の穏やかな死顔があった。


 少年の名は宮東。連日カマスが入れ食いだとの噂を聞いて、休日の今日この堤防に釣りに来た。そして、そこで行き倒れた『翔』を見つけた。



◇◇◇



「無縁仏だね」


 一通りの現場検証と事情聴取ののち、持ち物を調べていた若い警察官は言った。

 そしてだいぶ経ったある日、警察から連絡があった。


「これ、いる?」


 使い込まれた古い自転車とくたびれた鞄。

 乗せていた荷物も、どうみてもごみの様なものばかり。破棄する事もできた。


 しかし宮東には、死んだ男の全てがそこに凝縮しているようにも見えた。


 誰にも知られぬまま、このような場所で最後を迎えることになった男。

 そんな男の遺品だ。せめて丁重に扱ってやりたいじゃないか。


「もしよろしかったら、僕が引き取ります。」


 そう言って、宮東はその自転車を押して自分の家へと戻った。


「なんだ、その自転車は?」


 庭で車を拭いていた父が声を掛けてくる。

 理由を話すと、やる気のない声でフーンと一言だけ口にして再び車磨きに没頭した。


「ふう。」


帰宅して冷えたジンジャエールを一口飲んだ後、自転車に積まれていた荷物の中身を探ってみる。


 沢山のメモ書きや名無しの請求書の入った封筒ばかり出てきたが、そのなかに人形がひとつ入っていた。


 座高四十センチほどのオールビスクドールのような質感で、きれいにデコレートされている。そして重い。荷物の重さはこれだったのかと宮東は納得する。


 取り出して確認する。どうも人の声に反応する類の人形のようだった。


――なんだろう?


 気になって背中に見つけたスイッチを入れてみるが動かない。


 分解しようとしたら、背中がビス止めの蓋になっていて簡単に外すことが出来た。

 が、裏蓋を開けた途端に目に入る複雑怪奇な配線と基盤の深淵の森が目に入り、すぐに辟易してしまった。


 だけど、どうも気になって機械に詳しい知人に写真付きのSNSで連絡してみるとすぐに返事が来た。それによると電源を入れてみてダメならモジュール交換が必要かも、とのこと。


 背中の蓋を開けて配線を引き出し、基盤を取り外してみる。よく分からないので友人の指示を仰ぎながら、ネット通販で整合の取れそうなモジュールを見繕って注文する。


 それと同時にメモリICと思しきものも見つけたのでこちらも調べてみる。

 どうも不揮発性メモリのようだが、バッテリーが死んでいる。


 元データ飛んでるとキツイなぁなどと思いながらいじくっているとデータメモリから何らかの反応があった。


「お!?」


 とPC画面を覗くと、テキストエディタに見たことのないコードが大量に表示された。


「なんだこれ?」


 データメモリからは他にもフォルダなどが見つかったけれど、開くことが出来ず、結局その日はそれ以上の作業をあきらめた。

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