第54話 超距離転移魔法 ヒガンノヒガン
マウソリウムでの戦いが佳境を迎えつつある頃、マウソリウムより遥か西方の城壁都市ラウリスの『空飛ぶきつね亭』では、ホーホとライラが邂逅していた。
「よ、よう。久しぶりだな」
ライラがホーホに声を掛ける。
「三百年前に大結界を結んだのちに力尽きて死んだと聞いたが……こりゃ思念体か?」
無理をして自然に接しようと努めるライラを、「おぬしもじゃろが」と侮蔑の目で見つめながらホーホが答える。
「久しいのう、ライラさんよ。(生前は賭けごとやら飲食のツケで首が回らなくなった)おぬしによくたかられたのう。たしか……返済を受けた記憶は未だ無いがのう」
「い、いや。た、助かったよホントにさ。ほ、ほら、いつかお前にあったら借りは返そうと思っていたんだよ……」
脂汗を書きながら、ライラが懸命に弁解する。
目が泳いでいる。
そんな2人のやりとりを、魔法学校の生徒たちは羨望の眼差しで見つめている。
「歴史書に記述されるような、偉大な大魔法使いであらせられるホーホ様とライラ様がお話されている!」
「ラ、ライラ様もホーホ様も数百年前に亡くなっていると聞いたのに、なぜ……」
「そんなことより、実際にこうして我々の目の前にいらっしゃるお二人を見よ! そしてあの小さなお体に秘められた大魔力! なんと、なんと神々しい!」
そんな敬慕の念が込められた会話を背に受けながら、ホーホは糾弾を続ける。
「更に言えば、われが死んだのち一目散にわれの住居や宝物庫の結界を破って洗いざらい
「そして挙句、われの墓(と言ってもランゲルデ王国に勝手に建てられた記念碑のようなもんじゃが)をも暴いたとか聞いたがの?」
これにはさすがに魔法学校の魔法使いたち、それに冒険者たちはドン引きした。
「えぇ、伝説のライラ様ともあろうお方がそんな卑しいことをするなんて……」
「いや、噂には聞いていましたが、まさか本当だったとは……」
「い、いやいや待て待て! お、おれだって好きでやったわけじゃないんだよ!」
「ほう? それでは何の理由があったんじゃ?」
感情の抜けたジト目でホーホが尋ねる。
「あ、あれだ! お前の法具はどれも魔力が強すぎただろ!? あんなものが悪意あるものの手に渡ったりでもしたら大変なことじゃないか!」
「そ、それにあたしらみたいな大魔法使いになれば骨一本ですら、死してなお強大な力を持つ」
「だ、だから『旧知』のおれが一元管理してやろうと……」
動揺するあまり、ライラの一人称が「あたし」と「おれ」を行ったり来たりしている。あたふたと身振り手振りを交えて懸命に弁解するライラをホーホが無言で見つめる。
――またはじまったな。三百年前と変わらんな。
ホーホがそう思った時、ふっと顔を上げる。
ホーホが得意とするスカイターゲットマーカーが起動した。
――西方で魔法弾が炸裂したな。
遠いな。どこだ?――
腕無しのタンバリンによって炸裂した魔法弾によって、ホーホが得意とする捕捉魔法スカイターゲットマーカーが超速で起爆地点を捕捉する。
遥か数千キロガルの距離を超えて、一瞬で起爆地点の三軸空間座標を特定する。
――マウソリウムの地下大聖堂か。
座標探知と合わせて、強制逆入力によって当該地区の状況が克明に把握できた。
コンマ何秒の刹那考えを巡らし、目の前のライラとフェルメーナを交互に見つめて瞬時に決断する。
「よし。『彼岸の悲願』を試すのにちょうど良い」
「ヒ、ヒガンノ? な、なんだよ?」
ライラが
「おぬし、借りを返す気があったと言ったな?」
「あ、ああ。そうだよ」
それを聞いたホーホがおもむろに掌を結び詠唱を始め、奇妙な文字と数式が描かれた魔方陣がライラの足元に展開する。
冥府の門で、あの魔獣が別れ際に伝えてくれた技だ。
それをアマリリスで
「お、おいホーホ! おまえ何する気だ!」
足元の魔方陣が、尋常でない強度と出力の転移魔法であることに気づいたライラが叫ぶ。
それには構わず、ホーホが詠唱を続ける。
ホーホの意図に気づいたフェルメーナが、魔法陣から逃げ出そうと暴れるライラに拘束魔法を幾重にも展開する。
「ちょっ、フェル! てめぇ、覚えてろよ!!」
そして、拘束魔法で
「おい、そこの魔法使い! おまえ『ハルゼハイムの末裔』だろうが!」
「あたしを助けろぉー!!」
それを聞いたホーホが、ぎょっとした顔でリーチを見た。
ギャーギャー喚くライラが光に包まれる。
「す、すごい! こんな強力な転移魔法があるなんて!!」
「私の力じゃ転移先がまるで捕捉できない!」
魔法学校の生徒たちが目を輝かせている。
「ライラよ!」
おもむろにホーホが叫ぶ。
「な、なんだよ!?」
白い光に包まれてすでに姿が曖昧になっているライラが答える。
「今宵おぬしに救国の名誉をくれてやる! 転移したら、なりふり構わずふき飛ばせ!」
ホーホがそう叫ぶと、光の中からかすかに返事が聞こえた。
「◎△$♪×¥●&%#?!」
なにを言っているのか分からない。
そして、ヒュン! と魔方陣も光も、ライラも消えてしまった。
天井が崩落して、満点の星空が頭上に広がる室内が静寂に包まれる。
「だ、大丈夫でしょうか……」
魔法学校の生徒たちが不安そうな顔をしている。
そんな彼女たちの顔を見て、ホーホは不敵の笑みを見せた。
「ふふっ、アレは当時われと双璧を成すと言われた希代の大魔法使いライラ・ヒュパティアぞ」
「心配ご無用!」
「ラ、ライラ・ヒュパティアだって!?」
傍らでことの成り行きを見ていたテルアが、目を見開いて叫ぶ。
「どうしたの、急に?」
フロースが心配そうにテルアの顔を見る。
「い、今の盗っ人が……オレのご先祖さま《ばあちゃん》?」
テルアの一言に、その場に居たものたちが皆言葉を失う。
「……えっ!?」
その場に居たものが、皆テルアを見る。
「ほんとうに、お前は何者なんだ?」
そう言って、フォルティスがテルアを見る。
そう言われたテルアも、唖然とした表情で首を傾げてフォルティスを見る。
ふっと、ガットが振り向いてリーチに声をかけた。
「リーチさん、俺をここに誘≪いざな≫ってくれてありがとう」
リーチがおずおずと頭を下げる。
「い、いえ。すみません。こ、こんなすごい方たちだったなんて私なにも知らなくて……」
「はん! こやつなぞ、われが居なければ今頃獣のクソじゃ」
ケタケタと笑うホーホに、ガットが尋ねる。
「そういや、さっきライラさん? がリーチさんを『ハルゼハイムの末裔』だって叫んだときお前驚いてたけど、いったい何のことだ?」
そう尋ねられたホーホが、しげしげとリーチを見ながら言う。
「いやはや。ここまで役者が揃うとは思わなんだが……。これが運命の輪というやつなのかの」
そう言いながらフェルメーナを見ると、彼女は首を傾げながら優しい笑顔を浮かべながら言った。
「そうですね。わたしでもここまで果然を眺めることが出来てほっとしています」
その言葉を聞いて、ホーホはじめ皆が「?」という表情を浮かべていた。
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