第46話 刺客
「避けろっ!!」
ランゲルドがそう叫び手を伸ばしたが、リーチの腹に深々と剣が刺さる。
剣を振る魔王軍の刺客を殴り飛ばした勢いで体勢を崩しつつ、ランゲルドは瞬時に事態を把握する。
「ガンガルドッ!!」
その声が発せられるや否や鉄扉を蹴破って騎士団長のガンガルドが飛び込んでくる。
初撃の急所を外した刺客が、すぐさま体勢を整えてリーチめがけて二撃目を放とうとする刹那、ガンガルドの剣が刺客ごと叩き飛ばす。
「そ、そうか。なぜフローラル・ライラの夢に魔王軍の委細まで描かれているのか不思議であったが、刺客がいたのか、魔王軍の!」
ランゲルドがそう叫ぶと、壁に叩きつけられて倒れていた刺客が上半身を起こして剣を持ち直す。そして、凄まじい奇声を上げてランゲルドに飛び掛かる。再びゴウンと鈍く大きい音がしてガンガルドの剣が刺客を跳ね飛ばす。
「くっ、剣が!」
そう唸るガンガルドが握る大剣に、大きなヒビが入っている。
ガンガルドは、ラウリス中の冒険者や諸侯から聖剣と呼ばれるほどの剣豪である。そして握る剣は、
その実力を買われて、今では騎士団長を拝命するだけでなくランゲルドの側近として身辺警護の任も担っていた。
そんな、自他ともに最強を認めるガンガルドも今宵の敵には自分を遥かに凌駕する力を感じていた。
―― 二、三度剣を交わしただけだが、私はこいつに勝てない。
そう感じ取ったガンガルドが思わず叫ぶ。
「ラ、ランゲルド様! お、お逃げください!」
刺客は再びその身を起こし、攻撃の体勢をとっている。
なぜか、少しのダメージも受けていないように見えた。
「ランゲルド様だけでも早くッ!」
刺客に剣を向け再び叫ぶガンガルドを背に、ランゲルドの視線はリーチを追った。
部屋の暗がりに、腹から大量の血を流しながらガットの方へ這っていく彼女が見える。
「だ、大丈夫か!?」
ランゲルドがリーチの方へ足を向けて歩みだそうとしたとき、ガンガルドを跳ね飛ばした刺客の剣が風切り音を立てながら、ランゲルドの喉元に向かっていった。
「天空の守護主よ。私に地上の民を護る力をお与え下さい。」
すでにラウリスの街の上空に到達しつつあるアカバドーラの目も眩む虹色の轟光を浴びながら、空飛ぶきつね亭の最も高い屋根の上でフェルメーナが詠唱する。
両の手をいっぱいに伸ばしてあらん限りの魔法を展開する。
彼女の頭上に沢山の浮遊魔法陣が形成される。
「多層防御魔法結界シールド・プロテクション!」
すると、ラウリスを覆うほどの巨大な魔法結界が高空に展開された。
町中がその光に包まれて、アカバドーラのそれと併せて目が明けられぬほどの輝度を放ちだす。
「これで防げるかどうかわからないけれど、どうか少しでも……」
アカバドーラと魔法陣と結界の光を受けて真っ白に輝く街を見下ろしながら、フェルメーナは祈るような気持ちで詠唱をつづけた。
悪魔大元帥レスルゴの放ったアカバドーラは、その内側に秘めた膨大なエネルギーをラウリス上空で今まさに収斂、炸裂させようとしていた。
リーチは床で悶えていた。
深く切り裂かれた腹部からの出血が激しく、痛みと失血によるめまいの中でリーチはガットに手を伸ばす。
「ご、ごめんな……さい」
深い、深い悲しみや絶望の中で、それでも必死に戦ってきたガットやホーホ、フォルティスやフロース、テルア達の孤独や苦しみが伝わってくる。
彼らのそうした想いに触れながら、リーチに漆黒の闇が迫る。
遠くで誰かが私を呼んでいる。よく聞き取れない。
「あぁ、血を流し過ぎたな」
リーチが小さくそう呟いてふっと最期の力が体から抜けていくのを感じて……
「……おねいちゃん!」
――声だ。声が聞こえる。
――誰?
「目を開けて、おねいちゃん! 僕だよ!」
死にかけていたリーチがその声に呼応して目を見開いた。
床に突っ伏したまま、その声の主を視線で追うと……
小さな小さな翼竜アズダルコが、必死の形相でこちらを見つめていた。
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