第26話 国堕としのアカバドーラ

 魔王軍第六軍 悪魔大元帥レスルゴは魔術師ルドラと魔王軍が誇る『魔法武力研究所』の協力を得て、その記憶からリーチの姿見の具現化に取り組んでいた。


 レスルゴが見たリーチの姿格好が、少しでも画像として抽出出来れば次に打つ手が見えてくる。そして可視化された記憶を流布し魔王軍で共有すれば、あの魔女の動向捕捉に必ず役立つだろう。


 その方法の模索は数年に及び、派生技術として複数の魔女の脳を物理的に接続することで魔法アンプのような多段増幅を促す装置を生み出すこととなった。更にはその装置の応用で、被験者の脳を接続することで思考や記憶を実体化させることにも成功した。


 記憶取り出し装置「ドリーマー」の完成である。

 これによって、リーチの姿見は広く魔王軍に周知されることとなった。


 そして、この装置開発の途上で思わぬ副産物が手に入る。


 実験のために幾人もの魔法使いを使って記憶の抽出に取り組んでいた際に、彼らの精神を連結した状態で魔力暴走させると、ある条件下で内包しているエネルギーが指数関数的に上昇する現象が認められたのだ。


「どういうことか?」


 レスルゴが尋ねると、『魔法武力研究所』所長のイトカ・アントワーヌが答える。


「はい、レスルゴ様。非常に端的に述べますと、魔力を光と熱に分解すると凄まじい力場、すなわちエネルギー量と等価変換出来得ることを発見しました。そして、そのエネルギーを取り出し発散させる方法が確立したのです」


「……つまり?」


 レスルゴが身を乗り出す。

 イトカが黒板のような木の板に複雑な式や呪詛、魔方陣を幾つも書き加えながら説明する。


 その中に、ひときわ目を引く方程式が記述されていた。


『e (energy:エネルギー) = m (magic:魔法)×c (charm:魔力)2乗』


 イトカがそれを指し示しながら話を続ける。


「この式の示します通り、魔力とはこの世の光と熱といったチカラの源、それに世界を構成するために必要な『ことわり』を錬成して出来ていたのです。そして、それら性質を異とするもの同士を繋ぎとめていたもの、それこそが複雑に絡み合う『念』であることが判明したのです」


「つまり、我々が長年探求してきたに到達したということか!?」


「その一部の真理に到達した、というところです。無論、先ほど述べました『念』の性質や由来、その原理原則についてまだまだ分からないことだらけではありますが。その原理を構成する成分の分離、すなわち、それらを安定的に繋ぎ留めていた『念』を引き剥がすことに成功もしております」


「エクセレント! 素晴らしいぞ!」


 イトカがうやうやしく頭を下げながら言葉を続ける。


「原理については形骸的に把握しましたが、例えばどのような魔法がどのような力を持つのか分かっておりません。また、それらを数値化することに関してはまだまだ研究する必要があるのが現状です」


 イトカの説明に、レスルゴが反応する。


「つまり、どんな魔法使いが効率よく爆薬として利用できるのか、よく分からないということか?」


 レスルゴの問いに「はい」と頷きながら、イトカが続ける。


「ただし、魔力を構成する成分から『念』に相当する成分を分離しますと、魔力放散が著しくなり非常に非安定な状態となります。そして、一瞬で魔力や『念』が雲散霧消してしまいます。ですが、逆にその不安定な状態を利用して成分を分離したのち再構成させますと、これがある条件下で我々が現在手にしている爆薬を遥かに凌駕する破壊力を持つようになる可能性を示唆する報告が以前よりあり、このたび遂に我らが『魔法武力研究所』がその実用化に成功したのです」


「おぉ! それで首尾はどうだ!?」


「はい。それはもう素晴らしいものでした。平均的な能力を持つ魔女ひとり分のを熱と光に分解すれば、小さな街ひとつ程度なら消し飛ばすことが出来るほどの出力を誇ります」


「魔女ひとりで街ひとつか。それはいい」


「それから様々な部隊にその装置を配置して多様な使い方やその効果を検証した結果、大きな一撃よりも、多数の小さな魔力弾に魔力を分散した多弾頭方式とすることが最も破壊力が向上する、非常に効果の高い方法であることが分かり、この魔力弾と仕組みを総じて『アカバドーラ』と名付けました」


「『苦しみを終わらせる最期の一撃』、か。強力な破壊兵器にそのような名を与えるとは、皮肉の聞いた素晴らしい提案だ」


「ありがとうございます」


 イトカは下げていた頭を更に下げて、レスルゴに提案する。


「『アカバドーラ』の完成には、まだまだ実験や研究が必要です。されば多くの捕虜が、とりわけ魔女が必要です。どうか更なる侵攻を」


「うむ。大魔王様への供物のためにも人間どもを攻め、堕とし、奪おうぞ!」


 そう言って大侵略の更なる号令をかけるのだった。

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