第16話 魔王軍、再び

 その頃、魔王ラッテンペルゲからホーホの大結界攻略の『再命令』を受けた悪魔大元帥レスルゴの魔王軍団は、古都ラウリスはもちろん人里を徹底的に避け、長大な迂回すなわち遠回りをしながら進軍を続けていた。


 その回り道の距離は遠大で、魔王城を出立してからまっすぐにラウリスへ向かえば半年ほどで到達できる距離を、すでに三年近い年月をかけて行軍を続けていた。


 無論、レスルゴもただ回り道をしていたのではなく辺境の各地、これまで未到達であったり未確認であった亜人やエルフ属、また魔物が住まう小さな集落や集団を侵略しながらの行軍であった。


 しかし、やはり一向にラウリスを目指さぬレスルゴに疑問を持つ者も現れてくる。


「レスルゴ様、どうしてこんなコソコソと回り道を繰り返しておるのですか?」


 軍団長にそう尋ねられたレスルゴが答える。


「偵察より耳にした情報では、尋常ではない出力の大魔法を使う者がいるらしいのだ。その者は、わずか一人で大軍団を壊滅させることが出来るという」


「瞬時に我が軍の精鋭が消滅したホーホの大結界でも、同類の魔法使いが居たとの情報がある。これだけの大魔法を駆使する者であるにも関わらず、いくら調べても得体が知れないのだ」


「したがって、人間どもの居住区を極力避けて進軍している」


 それを聞いた軍団長は、ごくりと生唾を飲んだ。


「な、なるほど」


――本当のことを伝えてもどうせ信用などせぬだろう。


 そう思ったレスルゴは、真実の断片を織り交ぜて適当に回答した。


 それから、辺境の人外やまだ支配下に無い魔物の群れなどを地道に侵略して支配下に置きつつ、それらをメモリーピアに保存しながら数年が経ったころ、斥候せっこうの役を担う飛翔魔物からある魔物の街の話を聞いた。


「なに? 人間のように商業や工業品の生産で貿易をして栄えている街があるだと?」


――大魔王様が把握していないような辺境で村を形成する程度の下級魔物が、人間相手に商いをしたり工芸品を製造するなど聞いたことがない。しかも、その地方はラウリスの近郊だ。


 レスルゴは黙って腕を組む。


――まだ魔王軍の侵攻が無い地域とはいえ、そのような高度な経済活動を営む魔物たちの集団が居たならば、あのラウリス侵攻の際に何年も前から行っていた事前の情報探知で必ず聴知ちょうちするはずだ。なぜ、我が軍の探知網から逃れた? また、やっかいな結界でもあるのか? いや、それなら尚のこと必須の情報として我が耳に入るはずだ。


「それは本当に魔物の街なのか?」


 確認をしたが間違いはないという。

 現在、レスルゴ率いる魔王軍が進軍している場所から約千キロガル(約千キロメートル)ほどだ。


「少し回り道にはなるが、物資の補給も図れそうだ。事情も知りたい。行ってみるか」


 レスルゴは、その魔物の街に向かうよう軍団に指示をした。

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