第11話 エクスカベーション!

 それから、亜人の子らを救うためのキシの遠征団が有志により編成された。


 真っ先に願い出たゴグマゴグを筆頭に、キシの命令で亜人をさらっていた元兵士数名が名乗りを上げ、六名のパーティーとして出発することが決まった。


 彼らとはいつでも連絡が取れるよう、団長に任命されたゴグマゴグにホーホが魔法を込めた結晶石のネックレスを渡す。


「これは、魔法石『アデラントーレ』。これで、おぬしたちとはいつでも連絡が取れるじゃろ」


 魔法石のネックレスを首にかけるゴグマゴグを見ながらホーホが言った。


「ホ、ホーホ様、ありがとう。だ、大事にするよ」


 ゴグマゴグは、それは嬉しそうに言った。


 それから数日して、彼らは旅立っていった。


「おそらく、数年あるいは十年以上かかるかもしれないな」


 手を振って遠ざかっていく遠征団を見送りながら、ガットが呟いた。


「それでも、亜人族の寿命は長い。彼らはやり抜いてくれるさ」


 フォルティスも彼らを見送りながら、そう呟いた。



「さて、俺たちはこの子らを里に届けるか」


 亜人の子供たちを見つめながらガットが言った。


「全員を家に帰すよ」


 それを聞いた亜人の子供たちは一様に明るい表情を見せた。


「しかし、カルルガットへの道のりからは少し外れるな」


 地図を見ながらフォルティスが言う。


「多少時間がかかっても、それでもこの子らを届けよう」


 ガットは言った。


「亜人の子らを里に帰す。そして、カルルガットに幼子を届ける」


 それを聞いた村人たちが、総出で村にある材料を使って幌馬車を作ってくれた。

 そして、その幌馬車には寝具や食料が詰め込まれ、その幌場所に繋がれた二頭の農耕馬と共に男が二人、同伴していた。


「どうか、これを使って下され」


 ホルホイ村の村長と村人たちが一同、頭を下げた。


「あなた方はこの村を開放して下さった。皆の命の恩人ですじゃ」


 村長はガットの手を取りながら言った。


「それに、亜人の子らには本当にかわいそうなことをした。手前勝手なお願いですが、せめてもの罪滅ぼしに一緒に行けない我々の分だと思って、どうかその幌馬車と馬をお使い下され」


「本当にありがとう。大切に使わせてもらうよ」


 ガットも深く頭を下げた。


「槍の旦那、おい達もぜひ同行させて下さい」


 そう言って馬車から降りた二人の男も深々と頭を下げる。

 彼らの名はスペクとテイターという兄弟だった。


「お、おい達はあんまり頭は良くねーが、そこのテルアと幼いころから一緒にやってきた仲でさぁ。力と体力には自信がありやすぜ!」


 力こぶを作ってニカっと笑う、ふたりの大男を見てホーホが言う。


「こりゃとんだ大飯喰らいが同伴するぞ」


 そう言って顔をしかめるホーホを見て、フロースたちが苦笑いをしていた。


 ところで、ホルホイ村に居た亜人の子供たちはガットたちが助けた子らも含めて全部で十五人。


 元々里に家族がおらず、独りで生活していた亜人の子もいて、そうした子らは村人たちの元に残ると自ら申し出たりして、結果十人がホルホイ村に残り、五人が亜人族の里に帰ることになった。


「南南西に向かって二百八十キロガル(約二百八十キロメートル)ほど進んだところに最初の里があるんだ」


 テルアが、里のある方角を指さして言った。


「おれたちは馬蛇を使って三日くらいで往復してたけど、この幌馬車だと片道五日ってとこかな」


 テルアが幌馬車を見ながら言う。


「この幌馬車があれば、亜人を里に帰してたのちもカルルガットに向かうのに十分役に立つじゃろう。そうじゃ、今のうちにわれの部屋を作ろうかの」


 そういってホーホが幌馬車の床に魔方陣を描いた。


「我が安寧を導く依代よりしろ穿うがて。エクスカベーション!」


 すると、ぽうっと床に『扉』が出現した。


「さて、整頓するかの」


 そう言うと、その床に出現した扉をギイと開けて階段を下りていってしまった。


「え? え? 幌馬車の床に地下へ続く階段? あれ? ホーホ様!!」


 それを見ていたテルアが慌ててホーホを追いかけてゆく。


 ガットも興味津々で、テルアの後を追いかけてみた。


 その階段は少しだけ螺旋を描いたあと、すぐに新たな扉に行き着いた。


「ホーホ様? ここにいるのか?」


 テルアが恐る恐る扉を開ける。


 扉の内側には、分厚く古びた本が何百冊も詰め込まれた本棚や机が整然と置かれており、そこかしこに得体の知れない何かが入れられたガラスの瓶が転がっていた。


「うへぇ! 幌馬車の床下にこんなところがあるなんて!」


 テルアが感嘆の声をあげる。


「相変わらずアホじゃな。幌馬車の床下に部屋があるわけないじゃろ。ここはたった今われが魔力でこしらえた魔法空間じゃ」


 ホーホが少し得意そうに言う。


「いや、お前は本当になんでもできるんだなぁ」


 ペタペタと壁や部屋の備品を触りながら、ガットも感心していた。


「そうじゃ、われはすごいんじゃ」


 ホーホがさらに得意そうになった。

 得意そうな顔をしてすぐに、怪訝そうな表情になる。


「あれ? そういえば久しぶりにこの魔法を使って思い出したが、解除したかの?」


 まあいいわい、と独り言を呟くとホーホはテルアとガットに言った。


「道中われは色々と準備をするんじゃ。旅の最中はだいたいここにいるから、入用ならここに呼びにくるとよい。入口は開けておくから」


 そうしてホーホは本棚や机の上の瓶やらなにやらをガタゴソと整理しはじめた。


 少しして、ホーホが頭をあげた。


「お? この力は……」


 ガットとテルアがホーホの部屋から幌馬車の床上に戻ると、フォルティスが声を掛けてきた。


「おい、遊んでいないで荷役を手伝え」


「ほーい」


 気の抜けた返事をして、テルアとガットは先にフォルティスを手伝っていたスペクとテイター兄弟に交じって手伝いを始めた。

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