コイワズライ

志央生

コイワズライ

 好き、という感情は私を狂わせる。胸の底から溢れ出る気持ちは止められず、体が動いて口が言葉を紡ぐ。そんな相手を無視した一方的な想いが通じることはなく、幾度となく断られている。

 私だって感情のままに行動して成功するとは思っていない。けれど、わかっていてもやめられないのだから仕方がないのだ。

「好きです」

 一日一回は口にして私は彼女からの反応を確認する。冷たい目、気持ち悪がる目、怯える目、諦めた目、毎日変化していく感情。それがいつかは私に対する好意に変わることを期待しているのだ。

「今日はいい天気ですね。雲も少なくて暖かい日になりそう」

 会話は一方通行でこちらを見る視線だけが意思を伝えてくる。それが嫌悪の感情だというのは私にもわかった。ただ、そんなことで折れるわけにはいかない。最初から通じていない想いなら、通じ合えるようになるまで頑張るしかないのだ。

「今日はおもしろい物を持ってきたんです。今回は喜んでもらえそうな物を選んだんですよ」

 それに反応して彼女は体を震わせた。今までにも何度かプレゼントを用意したことはあるが、どれも気に入ってもらえなかった。それどこか激しく拒絶されたこともある。

 しかし、今日の一品はきっと喜んでもらえるだろう。そう思いながら用意していた紙袋の中を探っていると、彼女の荒い鼻息が聞こえてきた。どうやら、あちらも期待に胸を膨らましているようだった。

 もしかしたら、これで彼女の気持ちが少しはこちらに向いてくれるかもしれない。そう考えるだけで胸が躍った。

「じゃーん」

 私が手に持った物を見て彼女は目を丸くしていた。予想外だったのか、それとも拍子抜けしてしまう物だったのか、その反応は私の思っていたものとは違った。それでも、こちらとしては構わずに進めるしかない。

「準備は少しかかるんです。先端を炙らないといけないから」

 その言葉に目を丸くしたままだった彼女が唸り声をあげた。言語は発さず、獣のごとく喉から声をあげ、目は怯えを孕み、体を身じろぎさせている。それが無駄なことだとわかっているはずなのに。

「大丈夫ですよ。すぐに喜んでもらえますから」

 私は笑顔を向けてそう告げ、十分に熱したそれを彼女に押し当てた。焼ける匂いと彼女の歓喜の声、それが私を興奮させた。

気が付けば何度も熱しては押し当てていた。焼けただれた箇所を見てから、気を失っている彼女を見て心の底から愛おしさが沸き上がった。

けれど、これはただの一方的な想いの押し付けでしかない。いつか、彼女から「好き」と言ってもらえるようにと願いながら部屋を出た。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

コイワズライ 志央生 @n-shion

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る