④ウィスキー(仕事仲間の女子二人)
「やばい太ったぁ……」
朝、体重計に乗って私は呻いた。思い当たる節はもちろんある。連日続く飲み会だ。我ながら所属しているコミュニティが多いので、今みたいな年末年始のシーズンはあっちゃこっちゃと呼ばれる羽目になり、気づけば週4で忘年会なんて日もあったりする。
「でも断るのも角が立つし」
それに不安もある。飲み会を断ったとして、もし自分のいない場所でみんなが自分の悪口なんて言っていたら。なんて、気のいい人が多い私の周りに限ってそんなことはないはずだけれど。
朝からなんだか憂鬱な気分になりつつ、気休めに朝食を抜いて私は出社した。
× × ×
「あんた、昨日ビールしこたま飲んでたしね」
酸素の薄い満員電車のなかで小さくなりつつ、仲の良い同期の明日香に体重の話をラインをした。すると、そんな味気ない返事がきたのだった。
「だってビールが一番おいしいんだもん。それに酔いすぎないし」
「そりゃそうかもしれないけどさ。糖質えぐいんだからたくさん飲むのは控えな」
あまりにも正論である。これ以上、太ることは許されない。ならば。
「断酒するよ……」
と、決意はしたものの未練たらたらそうな私に、明日香は「よしよし」とメッセージを送ってくれた。さすが四人姉弟の長子。甘やかすのが上手い。
「それかいきなり断酒じゃなくて、ビール以外の糖質低いお酒を飲むようにしたら? ウィスキーとかさ」
意外な提案に驚いてしまう。
「でもウィスキーってあんまりなじみないんだよね。昔、一回だけ飲んだことがあるんだけど、あんまり味が好きじゃなくて。それ以来、ずっと避け気味」
「本当? あんたお酒好きだし、美味しいやつ飲んだらハマると思うんだけどなあ」
それからの明日香は止まらなかった。
この前バーで飲んだあの銘柄が良かっただとか、ディスカウントショップで売ってるあの銘柄が味の割にコスパがいいだとか。今まで飲んだ何年物の味が忘れられない、だとか。
そういえばと思い出す。初めて明日香と会ったときもお酒で話が弾んだのだった。会社での飲み会でこそ控えめだけれど、彼女はかなりのザルなのだ。過去を思い出して、私はふふっと一人で笑ってしまう。
あれよあれよという間に、私たちは一週間後に明日香の家で宅飲みをすることになった。
体重増加や人間関係の悩み、飲み会にはいろんなものがつきものだけど、明日香との宅飲みは純粋に楽しみだ。酒がきっと美味しくなること請け合いである。
電車の扉が開いた。
今日はなんだか仕事も上手くいきそうな気がする。
ぼくらの希望はお酒だけ… 酔 @sakura_ise
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