第4話 目的不明

 セオドアから関心を向けられていないということは、この場だけで言えば必要以上に警戒しなくていいということ。


 だから、お腹が満たされると、睡魔がしきりに手招きしていた。


 夜通し移動で、起きているのが限界だった。


 でも、唐突に放たれたセオドアの言葉に、一気に緊張を強いられることになった。


「お前の祖母はどこにいるんだ?」


 顔を上げるとセオドアはこっちを見てもいなくて、さりげなく尋ねてきたようだったけど、私の全身を凍りつかせるには充分だった。


「……おばあちゃんにまで何かするつもりなの?」


 おばあちゃんは公爵家とはなんの関係も無いのに、そこまで見境がないのかと、怒りがわいた。


「お前を、そこに送り届ける」


 それなのに、私の怒りなんか無視して、セオドアの口調も表情からも、全くなんの熱も感じられない。


 だから余計に何を言っているのかと、信じられなかった。


 いったい、何が目的なのか。


 どんな得があるのか。


「お前を祖母の所に送り届ける。希望するなら、別の移住場所に連れて行ってやる。祖母と一緒に暮らしたいのなら、元の場所にはいない方がいい」


「どうして……」


 私を娼館に連れて行くようにと命令を受けたのではなかったの?


「お前は、公爵家の娘なのか?」


「違う。私の家族はおばあちゃんだけ」


「なら、それが答えだ」


 視線をまったく合わせないセオドアの横顔からは、何を考えているのか読めはしない。


 言葉通りの意味しかわからない。


 本当に?


 本当におばあちゃんに会えるの?


 信じられないって思っても、期待せずにはいられない。


 食事を食べ終えたセオドアは、立ち上がると、二つあるベッドの片方で休むように私に指示した。


 出発は暗くなってからだと。


 そしてすぐに部屋から出て行った。


 また、私は一人で部屋に残される。


 一つのベッドをゆっくりと使えるとは思わなくて、清潔なシーツの間に潜り込むと、すぐに瞼がトロンと重くなった。


 昨夜から今までの変化に悩む間も無く、希望を抱いて静かな暗闇に引き寄せられていた。


 私が寝ている間、セオドアがどうしていたかはわからない。


 目が覚めたら夕方で、出発の準備は整えられていた。


「ここから先は人目につかないように移動する。歩けるか?」


 セオドアはまたフードを深く被っていた。


 私以外の人がいる時はいつも素顔を隠している。


「うん」


 たくさん眠れたから、休息は十分にとれていた。


 むしろ、セオドアの方が全く休んでいないように思えるけど。


 私の返事を聞いたセオドアは、疲れなど全くない様子で歩き出す。


 その後ろを追いかけた。


 おばあちゃんは、帝都から遠く離れた北東部に住んでいる。


 そこまで歩いて移動するには結構な距離がある。


 その上、セオドアが選ぶ道は、道と呼んでいいのか怪しい所ばかりで……


 どんな場所でも大きな荷物を一人で背負っていても、平然と歩いて行く。


 これでも色んな労働をさせられていたから、そこそこ体力はあるけど、徒歩の旅路はなかなか簡単ではなかった。


 でも、もうすぐおばあちゃんに会えると思えば頑張れた。


「セオドアは、どこの出身なの?」


「…………」


 セオドアに好奇心を抱いたわけではなかったけど、道中がずっと無言になるのに耐えかねて声をかけていた。


 でも、その背中は沈黙を貫いて答えてはくれない。


 どれだけ話しかけても無視を決め込んでいたから、早々に諦めて歩くことに集中した。


 歩いて、休憩して、食事して。


 野宿で休んで、また歩いて。


 セオドアは、必要なこと以外は喋らない。


 だから、何日もずっと一緒にいたとしても、彼のことで知ったことはなかった。


 年齢すらもわからない。


 わかっているのは、私をおばあちゃんの所に連れて行ってくれているということだけ。


 カーティスの指示を無視して。


 わからない事は考えても無駄だからと、もうすぐ会えるおばあちゃんのことを思い出していた。







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