第16話神のいたずら

山口に私なりの提案をしてみたが、どうも乗り気じゃないようだ。しかし、私はもう試したくて仕方ない。

そこでひとつ提案をした。


「ゆっくりよく考えて決めてもらっていいよ。そのかわり、今日の夜の君の夢を私に貰えないかな?」


「どういう意味ですか?」


「簡単な話だよ。今夜君が見る夢を私がプロデュースする。夢だから君自身には何の実害もない。どうかな?」


「まぁ‥別に夢なら。」


よしよし、とりあえず彼のこれからは後でじっくり考えるとして・・・。

今日は彼の夢の中で遊ばせてもらおう。


私はとにかく長い間、神として世界の規律と秩序を守るために尽力してきた。

それは恐ろしく長く孤独な時間だ。つまらんのだ。

たまには少し悪ふざけをしてもいいじゃないか。



家に帰った俺は、先生に今夜の夢を渡すことになった。

とにかく、先生のプロデュースした夢に身をまかせてみる。どのみち夢だ怪我もしなければ損をすることもあるまい。

単純にどんな夢を見せられるのか興味もある。


静かにベッドに横になると体から力がスゥーッと抜け意識がぼんやりとしていった。



やがてうっすらと瞼に光を感じ、ふわふわと体が浮いている感覚に包まれた。

ゆっくりと目を開けると、そこは空。


雲を見ながら仰向けにゆっくりと下降している。

良く見えないが胸のあたりで何かが青白く光っている。

なんだ?これは?

夢の中だが意識だけはしっかりしていた。


さあ、始めるよ。


直接俺の心に話しかけてくる声が・・・これは・・先生だ。

心の中に先生の姿が映る。


君の名前はヤマグチータ・トゥルル・モン・カボチャ。かつてすべての野菜の発芽を支配していた王家の末裔だ。

きっとチータと呼ばれることだろう。


物語は自然と進んでいくだろうから、身を任せて楽しみたまえ。

そう言うとすっと姿が消えた。


俺は静かに地上に向かって落ちて行った。やがて小さな町が見えてきた。

どうやら田舎の炭鉱のようだ・・。

(先生・・・あれやる気だな。)


町がだいぶ近づいてきたころ、下の方から少年の声が聞こえてきた。


「親方~っ!大変だぁ!」


どうやら発見されたらしい。俺は静かに目を閉じた。


少年が叫ぶ。

「なんか、おじさんみたいな三つ編みのおばさんが降ってきてる!」


「馬鹿野郎!ふざけた事言ってないで早く寝ろ!」

親方らしき人の野太い声が響く。


どんどん落ちていく。


あれ?


さらに落ちていく。


えっ?


薄目を開けて少年をチラ見する。


あれ?こいつ助ける気ねぇな?!


俺はうなされている風に声をあげた。

「私、不思議な石を持っているのよねぇ。宝の島の話とかもあるんですってねぇ・・・。」


少年をさらにチラ見する。


まだ足らないらしい・・・。


「助けた方がいいんじゃないかなぁ~。冒険したいよねぇ~。」俺はそっと合掌してみせた。


すると少年はだいぶ警戒しながら俺を捕まえてくれた。


「おじさんは・・・おばさんですか?」

少年が真顔で尋ねる。


えっ? 確かに俺は精神はおじさんだがこの世界ではおばさんらしい。

「おじさんはねぇ。野菜の国のおばさんなのよ。チータっていいます。演歌歌いそうよねぇ~。」

精一杯の笑顔でほほ笑む。


少年は苦笑いを浮かべながら作業場にいる親方に叫ぶ。

「おじさんが野菜のおばさんだった~!」


「わけわからん事言ってないで早く寝ろ!マズー!」

 

どうやら少年の名前はマズーというらしい。


こうして野菜のおばさんと少年マズーの物語が始まった。










  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る