第12話能力発動3日目その2

ワンボックスカーに乗り込でしまった俺は声をひそめ様子をみていた。

とにかく気づかれたら最後だ。


女の子は最初こそ泣きわめいて暴れていたが、やがて観念したのか大人しくなり車内には彼女のすすり泣く声だけが響いていた。


20分ほど走っただろうか、静かに車が止まった。

「降りろ」


女の子隣にいたチンピラが促す。

それに続いて上手に車を降りる俺。

危なかった・・・。


男は女の子の腕をつかみ雑居ビルの中へと連れていく。

階段をのぼり3階の事務所らしき場所に。


中に入ると兄貴分らしき男が口を開いた。


「あんたには奴に代わって金を作ってもらわないとな。こっちはキャバクラでも風俗でも構わないが・・・返すのに時間がかかるだろう?。で、どうだ?一気に返済する方法として・・・AVに出てみないか?」


「えっ・・?」

彼女の顔色が変わった。

「なんで私が・・・。」


「あんたが返さないなら奴は・・・・どうなっちゃうんだろうね?」

「ねぇ?。おじょうさん。」


うわぁ~ホントにあるんだ・・・こんな話。

緊迫した状況を全裸で観察する俺。


このままそっと脱出しても構わないし、実際それが賢い選択なのかもしれない。

だが

なら、どうしてあの時車に乗った?


思えば俺はこの年まで、誰に必要とされるでもなく、誰がやっても違いのない仕事をし毎日を無難に過ごしてきた。


そんな俺に今やるべきことがあるんじゃないのか?


なぜ今俺は透明なんだ?


なぜ、こんな奇跡みたいなことになっているんだ?


きっとすべての事には意味がある。そして俺が今こうして透明になっている事にも。


今こそ必要とされている。


彼女を助けよう。




俺はあたりを見回した。何か武器になるような物はないか?


あっ・・・。


俺はある物に目をつけた。


あとはタイミングだけ。


ふぅっ・・・と息を吐いて。


よし!やるぞ。


俺はテーブルにあったボールペンをそっと奴らの後ろに投げた。


カランカラン。乾いた音がする。


「あっ?なんだ?」


ふり向く2人。 


次の瞬間、チンピラの方を思いっきり突き飛ばした!

「ぐはっ!」


透明な俺に急に吹っ飛ばされるのだ。


何もないのに吹っ飛ぶ男。


2人ともパニックになっている。

すかさず俺は近くにあった殺虫剤のスプレーを奴らの顔にお見舞した!


「ぐわぁ・・・いってぇ・・・。」


俺は彼女の手を握った。


「逃げるぞ」


えっ?と驚いた顔をした彼女を半ば強引に引っ張りだす。


「走るぞ!」


彼女は何が何だかわからないが必死に走った。


「女が逃げるぞ!追えっ!」


どなられたチンピラが目を抑えながら追ってくる。


俺は走った。


必死に走った。


階段を駆け下り、とにかく大通りを目指して走った。


無我夢中で走った。


後ろから男の声が聞こえる。


捕まったら終わりだ。


息が切れる・・・。

当然だ。普段全く運動なんてしていないのだ。


そのうち不思議なことに気づく。


手を引っ張っていたはずの女の子が俺の前を走っている・・・・。

いつの間にか手を引かれているのは俺の方になっていた。


後ろの怒号が近づいてくる。


まずい。


俺は手を放し大声で叫んだ。


「君はこのまま家に戻れ!」


「戻れ!」


「戻れ!」


「戻れ・・・・。」


スッ。


俺は素っ裸のまま街に放たれた・・・・。


マジか!?こんな・・。なんで。


後ろからは男が迫っている!もうダメだ。


「うおぉぉぉぉっ!」


俺はクルッと向きを変え、涙を流しながら奇声を上げて男に突進していった!


するとどうだ。


男達は「うわぁぁ~っ!」

と急停止し向きを変え逃げていった!


当然だ。

目の前に突然全裸の中年が現れ、奇声を上げて泣きながら突進してくるのだ。

恐怖以外無かったはずだ。


かくしてピンチは免れた・・・・はずはなかった。


俺は全裸で夜の街に残された。



俺は警察に連れて行かれた。













  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る