第6話神の証明その3
万馬券を当てたことで山口の私を見る目が明らかに変わった。
不審者を見るような冷たい目は影を潜め競馬の達人を見るような好意的な目になっていた。
本当ならゆっくり昼飯でも食べながら本題に入りたいところだが、ここは競馬場。
あっという間に午後のレースが始まってしまう。
のんびりしている時間はないのだ。
二人で牛丼を掻き込みながら新聞を片手に次のレースの話をした。
彼は興味津々で私に質問をしてくる。
予想の基本的なスタイル、馬体の見方、展開の読み方など。
多少の牛丼のかけらが口から飛び出そうとも彼の話は止まらない。
顔を真っ赤にして真剣に聞いてくる『ねぶた顔』は迫力十分。
もちろん私自身も『ねぶた顔』なのだから傍から見たら、ねぶたとねぶたのぶつかり稽古。全くすごい情熱だ。
山口のことは以前から観察していたが、これほど熱心に何かに興味を持つ姿を見るのは初めてだった。
これだけの熱意を仕事だったり、恋愛に向けていれば違った人生になっただろうに・・。
まあ、この男・・・ねぶたのくせに超面食いだからな・・・。
本当に人間は不思議な生き物だ。
そんな事を考えながら私は午後のレースも彼を勝たせた。
怪しまれないように自信がないから、このレースは少額ね。
なんて言いながら適度に外しながら自然に勝たせることに成功した。
「いや~。今日は本当にお世話になりました!」
山口の声が弾む。
「今日は上手くいきすぎたよ!ちょっと神がかってたね。」
と私は謙遜してみせる。
まあ、私は神なのだから当たるのは当然なのだが笑
「もし時間あれば夕飯行きませんか?ぜひ御馳走させてください!」
山口は興奮気味に私の手を取る。
よしよし、完全に心をつかんだぞ!
今日だけで30万くらい勝たせたからな。当然か。
「どうします?何がいいですか?」
「寿司にします?焼肉もいいですよね!いい店知ってますから!」
「いやいや、そんな気をつかわないで」
「あそこにある中華屋なんかどうかな?」
私は遠慮した風に近くに見えた町中華の店を指さした。
「えっ?遠慮しないでくださいよ!」
山口は慌てたように語気を強める。
「いや、かえってこういう店の方が落ち着くから」
地元で愛される中華の名店『満腹亭 招来軒』
山口の将来を決めるには最高の名前だ。
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