第3話
第三話
「じゃーん! 慧斗くんを連れてきたかったのはコチラです! どお、意外だったでしょ?」
一週間後、まりんに元気よく案内されたのは、高校の最寄りから五駅離れた場所の、高台にある神社だった。
「綺麗だな」
風に吹かれながら素直な感想をこぼすと、まりんはえへへと喜んだ。
「ここ、穴場の絶景スポットなんだよ〜。地元の人しか知らないような小さな神社だから、参拝客はいつもそんなにいないんだ」
「よく来るのか?」
「まぁ、ちょいちょい? ……そんなことより、この前送った津森メグのインタビューは読んだ?」
「読んでない。記事の写真だけは見たが」
「えー。なんで? 忙しかったの?」
「……怖くて」
「はっ?」
「記事を読んで、津森メグが俺の思うような
「へぇ? そういうものなんだ。まぁ好きなタイミングで見たらいいと思うよ。それより、せっかく神社に来たんだからお参りしましょーぜ!」
まりんに腕を引かれ、拝殿の前にやってきた。賽銭箱にちょうど財布にあった五円を入れて、二人揃ってぎこちなく礼をする。それから拍手。いつものように手を合わせて五秒もしないうちに顔を上げ、もう一度礼をしてから――ふと、隣のまりんを見た。いったい何を願っているのだろうか、真剣に目を閉じ両手を合わせている。綺麗な横顔だった。
✕ ✕ ✕
二人で境内に設置されている石製の腰掛けに座り、再び神社から市内を眺める。暮れなずむ街はまるで絵葉書のようだった。ふと、先ほどのまりんの横顔を思い出す。
「そういや、まりんはさっき何を願ったんだ?」
どうやら彼女はぼうっとしていたらしい。こちらの唐突な質問にまりんは「ふわ?」と間の抜けた返事をした。
「ごめん、今なにか言った?」
「いやお前は何を願ったんだろうって」
「あー」彼女は困ったように笑う。「みんなが幸せになれますようにって」
「漠然とした願いだな」
「いいじゃん別にー。そういう慧斗は何をお願いしたのさ」
「健康」
「じじくさーい」
「大事だろ」
「そうだけど、なんか華やかさがない。……ってかやばい、そろそろ時間だ!」
「なんだよ。お前んとこって門限でもあるんだっけか?」
「ううん、私たちが約束した時間がそろそろなの」
まりんは手首のスマートウォッチを確認し、神社の入り口を見やる。視線の先は、さっき一緒にくぐった朱色の鳥居があった。その先の参道は石畳の階段になっており、次にどんな人間が来るか、直前まで境内からは見えない。
ふと、じゃり、という音が遠くからした。小石と枯れ葉を一緒に踏みしだく音だ。断続的に聞こえるそれは次第に近づいてくる。この小さな神社に誰かが来ようとしているのは間違いない。
まもなく長身痩躯の女性が鳥居をくぐってやってくる。
「えっ?」
――津森メグだった。
この一週間、頭の中を支配していたその人。
無言で隣のまりんを見る。
まりんはいつものように愛嬌のある笑みを浮かべているままだった。
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