第2話
第二話
「しっかし、慧斗が誰かを推すなんて意外だね〜。君、すっごい現金だしメリットばっかり考えるタイプだから、そういうファンっぽい心理とは全く縁がないと思ってたのに」
まりんは「ふむふむ」とわざわざ口に出して分析をする。
できるだけ直視しないようにしていたのだが、まりんの一言で、自分を客観的に認識する羽目になってショックを受けた。
どうやら自分は津森メグのファンになってしまったらしい。
よりにもよって、あんなおぞましい『ファン』という存在に。
彼女が
悶々と思考の檻に囚われていると、まりんがこちらをじっと見て言った。
「……ってかさ慧斗の百面相、めずらしくておもしろいね」
「あのなぁ。こっちは真剣に思考を巡らせているんだぞ」
「ごめんってば〜。許して?」
「ぶりっ子やめろ」
まりんのおかげで、少しだけ気が軽くなった。
✕ ✕ ✕
夜になって、スマホのチャットアプリにまりんからメッセージが届いた。内容は津森メグに関するエトセトラ。津森メグの略歴が載せられたインターネット上の百科事典に始まり、オーディション合格時のネットインタビュー記事、彼女が持つSNSアカウントのリンクが添えられている。こちらが機械の不得手なことをまりんはよく知っているから、気を利かせて送ってくれたらしい。
宿題をしていた手を止めて、慣れない手付きでまりんにメッセージを送る。
<ありがとう。>
息抜きがてら腕を伸ばしていると、すぐに返事がきた。
<どういたしまして笑 ……ってか前から思ってたけど、毎回メッセージの最後に、いちいち句点つけるのおもろすぎ!>
別に普通だろという返信の文面を両手でたどたどしく作成している最中に、まりんから更なるメッセージの追撃がきた。
<そういや来週の放課後、空けといてくれない? 慧斗と行きたい場所があるのだ〜>
なんだ? 面倒くさい予感がするんだが。
……と考えるのも、以前に三時間ほどゲームセンターに付き合わされた過去があるからである。かつては、まりんお目当てのぬいぐるみをUFOキャッチャーで取るのにかなり苦戦した。
あいにく暇じゃないと返信しようと思ったが、指先が滑ってなかなか作文が先に進まない。そうこうしているうちに、まりんからのメッセージがさらに重ねられる。
<ちなみに断るのはナシだからね! 津森メグの情報をまとめてあげたんだから、お礼ってことで>
そう言われてしまうと弱い。
……仕方ない、来週だけは付き合ってやるか。
スマホを自室のベッドに放り投げ、ふたたび勉強にとりかかる。
しかしどうにも集中できない。ふと思い立って、スマホを取りに戻り、先ほどまりんから送られてきたリンクにアクセスしてみた。すると小さな液晶のなかに、オーディション合格時の写真なのだろうか、ぎこちない笑顔を浮かべる津森メグの写真が現れた。自分の知らない津森メグだ。単なる写真だというのに、それがやけに神々しく思えて、画面を閉じぬまま、スマホをデスクスタンドに立てかけてみる。
すると、不思議と自分の勉強を、津森メグが見守ってくれているような気になった。
「勉強、がんばります」
小さく独りごちて、またシャープペンシルを大学ノートに滑らせはじめる。我ながら恥ずかしいことをしているという自覚はあった。それでも高揚感が身体を支配する。
「応援してるよ」
知りもしないメグの声が、優しく聞こえたような気がした。
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