ぼくが田代 血塗騎士と知った日 -1

母は、田代 血塗騎士を『あんた』や『ちょっと』と呼んだ。


そのたび田代 血塗騎士はひどく悲しい気持ちになり、しかし幼さゆえにその感情を言語化できないでいた。


「お前! また実の息子を雑な呼び方しやがって!」


「はぁ⁉ 誰のせいでお腹を痛めて産んだ我が子が愛せないと思ってるのよ!」


両親が喧嘩するたびに、田代 血塗騎士は二階の自分の部屋で震えていた。


ぼくのせいだ。


おかあさんはぼくのことがきらいだから、おとうさんとおかあさんはきらいあっていて、けんかばかりしている。


でもどうして、おかあさんはぼくのことがきらいなんだろう。


田代 血塗騎士がそれを理解できた日は、悲しいくらいに早くやってきた。





両親の不和は相変わらずのまま、田代 血塗騎士は地域の小学校へ入学した。


入学式の日。初めて教室に入り、初めて自分の席に座った日。


教室のどこを見ても、田代 血塗騎士と同じくらいの年の頃の子供がちょこんと席におさまっていた。


「ではひとりずつ自己紹介とあいさつをしてもらおうかな」


 教壇に立った『せんせい』という大人がそう促すと、はしっこの席に座っていた子供が立ち上がり、おおきくて、うわずった声で言った。


「やまかわ だいきです。すきなものはやきゅうとからあげです、よろしくおねがいします!」


「はい大樹くんよろしくね。では後ろの席の美奈子さん自己紹介をお願いします」


せんせいが順番にこどもたちの名前を呼び、そしていよいよ田代 血塗騎士の番が回って来た。


田代 血塗騎士は、胸いっぱいに空気を吸い込んでから、元気よく言った。


「たしろ ブラッディナイトです。みなさんとはやく仲良くなりたいです。よろしくお願いします」


そのとき、教室の空気がぴんと張ったような気がした。


先生が、一瞬口ごもり、やや目を泳がせて言った。


「ああ、君が田代くんか……がんばってね」


田代 血塗騎士の自己紹介を皮切りに、それまで緊張した面持ちで口をつぐんでいた子供たちが突然興奮して口々に叫びだした。


「ブラッディナイト!???」


「みなさん静かに! みなさんはもう小学生なんですからね。次は陸くん、自己紹介をお願いします 」


田代 血塗騎士にはどうしてかわからないが、どうやら『なかま』たちが田代 血塗騎士を受け入れてくれたらしい。


「西園寺 陸です。お勉強をたくさん頑張りたいです」


やっぱり、おとうさんの言うことは正しかった。


田代 血塗騎士はほくほくとした気持ちで振り返り、後ろの席で自己紹介を終えたばかりの子供を見上げた。


田代 血塗騎士と目が合うと、陸と名乗った少年はにこりと笑って見せた。


田代 血塗騎士は、すぐにこの陸という少年が好きになった。




しかし結局田代 血塗騎士の人生でできた『なかま』は、結局この陸たったひとりなのであった。

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