ぼくは田代 血塗騎士

 田代 血塗騎士は、たしろ ブラッディナイトと読む。


 田代 血塗騎士は、のどかな田園の中にぽつぽつと建つ家の、そのひとつに生まれ落ちた。


 両親は若く、近所に年のちかい子供がいなかった田代 血塗騎士は、もっぱら父に遊び相手をしてもらっていた。


 田代 血塗騎士の名前をつけ、ブラッディナイトの響きにこだわったのはこの父であった。


 名前の元になったのは、老舗RPGに登場するキャラクター、『血塗騎士≪ブラッディナイト≫』の肩書きを持つ戦士・リクである。


 絹のような長髪を風にはためかせ、己の血から造りあげた魔法の剣をふるって戦う姿は、田代 血塗騎士の父に強烈なインパクト与えた。


 田代 血塗騎士は、そんな父の意向で髪をすこしだけ伸ばしていた。


 だからよく女の子に間違われもしたが、


「まるで、本物のリクのみたいだな」


 という父の言葉にいつも心がぽかぽかとあたたかくなったので、おとなしく髪を伸ばし続けていた。


 毎日父は仕事を急いで切り上げて、田代 血塗騎士とゲームで遊ぶために帰ってきてくれた。


「おとうさん、みてみて! ぼくもうひとりでドラゴンのところまで行けるんだよ!」


「すごいなぁ、血塗騎士は。あっという間に強くなっちゃうな。でも強くなるだけじゃだめだ。リクがやってたみたいに、仲間を大事にするんだぞ」


「なかまってなぁに?」


「仲間っていうのは……友達のことだな。血塗騎士はもうすぐ小学生だから、すぐにうんと仲間ができるぞ」


 父は、田代 血塗騎士の頭をぐりぐりと撫でて笑った。


「ふふ……もう、おとうさんがゆらすからリクがせんとーふのーになっちゃったよー」


 この父とのひと時は田代 血塗騎士の人生にとって代えがたい幸福で、忘れがたい記憶である。


 そして、そんな父子を冷ややかな目で見る母の姿も、田代 血塗騎士の忘れがたい記憶なのであった。

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