1話 転生する異世界についての話


『ふむ、理解できなかったか?汝は魔王に成る事が決定している』


「ちょっと待ってくれ、色んなことが唐突で理解が追い付いてないが魔王だって?」


良く分からない空間にいると思えば転生する事になってしかも魔王だって?

よくある物語の勇者になるっていうのですら荷が重いと思っていたのに、よりにもよって悪役になるのか...?


『善と悪、何を以てそれを定義するかは我でも一言では説明出来ぬが魔王と言う肩書が悪だとは限らぬ、むしろ我は善だと決定づけている』


相変わらず声の主は無機質なトーンで淡々と語り掛けてくる。


『現に汝がこれから転生する世界は、勇者によってそう遠くない未来に滅びる可能性がある。正確には勇者達とその女神によってな。我はそれを見過ごせない、故に汝を魔王として送り込むのだ』


おいおい、なんだって?滅ぶかもしれない世界に転生させられるのかよ......。

どうすればいいんだ、ていうか拒否権ないよな多分。

諦めてこれからの事について考えた方が良いかもな。


「分かった、分かったがとりあえず色々順を追って質問させてくれ、構わないか?」


『無論だ』


「まず元の世界での俺はどうなったんだ?友達とかは居ないけど急に消えたら驚く人も居るかもだろ」


折角頑張って建て直した家や山とこんなにすぐお別れになってしまうのは正直悲しい気持ちもあるが、あの田舎で俺の変死体とかが出て周りに迷惑がかかってしまうのは良くないと思った。


『汝の因果律に干渉し、時を遡り最も地球世界との接点が低いときに死亡した事にした。その為汝が考えている不安要素は解決している』


なるほど、因果律とか接点とか良く分からないが良い感じにしてくれたって思えばいいのかもな。

悲しむ人が居ないなら転生することには問題ないか。

後は具体的な目的とか転生先の事も聞いて置かないとまずいよな。


「じゃあ魔王になれって言ってるけど、俺はよくある魔法もない世界で育ったし戦闘、ましてや喧嘩すらしたことのない人間だぞ?それでその......なんて呼べばいいんだ、神様の目的は果たせるのか?」


『然り。汝には転生する際に我から恩恵を授け必要な知識や力も与えよう。代わりに魔王として勇者共を討ち女神の力を削ぎ落すのだ』


「なるほど、と言うか俺は人間だったがそれが魔王で大丈夫なのか?俺が人間側に寝返るかもしれないということは想定してないのか?」


『然り。勇者の女神は徹底した人間至上主義の信仰を行っている、汝は我の眷属として姿はヒト種族に近いが本質は魔として生まれて貰う。それは人間には持ちえない力、あの女神が受け入れるはずかない』


なるほど、そもそも裏切るとか以前に受け入れすらされないってことか。

それはそれで俺は生きていけるんだろうか、人間以外の人の種族なんて居ない世界だったんだ。

そりゃあ漫画やゲームとかで知識はある、もしその知識と似ているなら馴染めなくもない......が。


「分かった、後は具体的に貰える恩恵の事とか聞いても良いか?」


『無論。汝には3つの力を授けよう

一つは我の眷属故に特別な肉体で生まれる。並外れた魔力に身体能力それに再生能力、加えてあらゆる種族に変幻可能な能力。

二つは黄金の魔眼。あらゆる生物や現象の本質を見抜く力。

三つは勇者殺しの異能。かの女神の勇者共は女神の恩恵を得て強化されている、条件さえ満たせばその恩恵を奪い汝の力に出来よう』


「.......そんなに強い力を貰ってしまって大丈夫か?」


『無論。しかし我の信仰力はこの世界では失われつつある、寧ろこの程度の恩恵しか与えられぬ事が歯痒い』


この程度って......かなり強い力なんじゃないかと聞いただけでも分かるが、これでもその女神の勇者と戦うには足りないのか?そう思うと少し不安になってくる。


『後に汝の下に助言者を向かわせよう、我が信者の中でも敬虔な者に啓示を授けておく』


「まぁ何にせよ、腹をくくってやっていくしかないか。またこうやって会話することは出来るのか?」


『確約は出来ぬ、何故ならば今回の汝の転生に我の残存する信仰力の半分以上を消費した。当面は回復するべく眠りにつく必要がある、しかし汝が魔王として活躍し我の信仰を高めたのなら再び相見える時も早まろう』


「分かった、俺に魔王なんて務まるか分からないけどこうなってしまった以上やってみるよ。どうせ隠遁生活だったんだ、やることが出来たのならやってみるだけさ」


俺は決意を胸に声の主に最後の質問をする。


「そう言えばあんた......神様の名前はなんて呼べばいい?」


その問いに無機質な声の神はゆっくりと答えた。


『我が名は失われて久しい、だがかつては様々な名で呼ばれていた。【夜の王】【無貌なる者】【影の支配者】今となっては懐かしい響きだ。その中でも特に呼ばれていた名前がある【全知の瞳オムニ】だ』


「オムニ......分かった、忘れないようにするよ」


『それでは短い邂逅だったが、汝を転生させる。期待しているぞ新たな魔王よ、かの女神から世界を守ってくれ』


そう声が聞こえると意識が少しずつぼやけてきた感覚がある、これで転生するって事なのだろうか。

あまりにも突然の出来事だったが折角の異世界転生、魔王だろうが何だろうがやってやるさ。

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