これが俺の魔王道 ~邪神に呼ばれた異世界で魔族たちを導きます~

東雲はち

プロローグ


ズキリと鋭い痛みが頭に響く。

その痛みにより意識が覚醒し、自分が大の字で横たわっている事を認識する。

目を開くと星空のような景色が頭上には広がっていた。

慌てて起き上がろうとするが思ったより身体に力が入らない、どこか怪我でもしたんだろうか。

その前に何故自分は地面に伏せていたのか、ここは何処なのか。

混乱して思い出せないがゆっくりと上半身を起こして周りを見渡す。


頭上には星空のようなものが広がっていたから外で気絶したのかと思えば、床にはちゃんとカーペットのようなものが敷かれている。

確か季節は冬だったはずだ、その割には寒くもなく暑くもなく適温だし風も吹いていない。


「夢......の中か?それにしては感覚がリアルだな......」


身体の触って確かめたり地面を撫でてみたりしながら、なんとか状況を把握しようと考えを声に出してしまう。

思い出せ、何をしていたか。


「確か深夜にコンビニへ行くために自転車を漕いでて......その途中......暗い田舎道だから気を付けてたけど何か黒い動物のような影が横切って、それを避ける為にハンドルを切ったら脇の雑木林に突っ込んだ......ような......」


確か、何かいわくつきの雑木林だった気がする。

曰く、神隠しに遭うから近寄らないように。

曰く、凶暴な野生動物が生息しているとか。

曰く、何かを祭っている祠があるからみだりに立ち入ってはいけない。

等々様々なうわさ話がされていた場所だった。

確かに田舎とは言え不自然に手付かずの場所だったはずだ。


「って事は本当に神隠しにでも遭ったって事か......?そんな馬鹿な話が」


『ーーー然り。』


状況を思い出そうとしている脳内に、ノイズのようなひび割れた音声が聞こえた。

声と言えるのか、それは機械音声のような無機質な抑揚のない音声、だかしかしどこか底知れぬ怖さや冷たさも感じる。

聞こえたと言うより脳内に直接語りかけてくるように響いた気がした。


「誰だ......?」


『怖がらなくてよい、ヒトの子よ。訳あって汝は我が神域へと召喚されたのだ』


無機質な声は先ほど同じように脳内へと直接声を響かせてくる。

と言うか神域?召喚?どうやら最近ゲームのやりすぎて夢にまでそういうのが出てきたのか......。


『これは夢や幻ではない、突飛な事ゆえに意識がまだ混濁しているのか』


「......俺、今声に出してたっけ?」


『此処は我が神域、よって全ての存在の掌握など容易い事』


「なるほど......どうやら本当に神隠しされてしまったみたい......なのか?」


『神隠し、転移、転生、召喚、この事象には様々な呼び名があるが好きなように呼ぶがよい』


淡々と変わらぬ声色でその神とやらは脳内に語り掛けてくる。

これが夢や自分の誇大化した妄想に飲み込まれた訳じゃないとして、何故俺なんだ?

悲しい事に何か特別な才能が自分に有った自負もない、平々凡々を地で行くのが自分だったはずだ。


『汝は地球と言う惑星世界の中でも珍しく運命に縛られておらぬ、そして一定以上の能力も持ち合わせている。それは稀有な存在だったのだ』


「運命に縛れてない......?」


確かに俺は自由に生きてきたと言うか、自力で生活をしていた感じはある。

幼いころに両親は事故で死んでしまった、一人っ子だったし頼れる人も居なかったが母方の親族に引き取って貰った。

そのまま頼り切りというのも嫌だったので工業系の高校を卒業後すぐに都会に上京して、工事作業員や建築関係などを転々として過ごした。

20代の頃はそれでも過ごせたんだが30代になると体力も少し衰えてきたのを感じて、転職を決意。

幸い給料は良かったし金のかかる趣味もして無かった、正確には趣味の時間もそこまで取れなかったから貯金は人並み以上にあったと思う。だから束の間の長期休暇だなとこれから何をしようかと考えていた。

そんな時ふとネットサーフィンをしてると田舎の古民家が売りに出されていたのを発見して、これだ!と即連絡をして見学に行って購入。

ボロボロだったが経験や貯金を活かして最大限自力でリフォームして、ネットや電気も工事依頼してオマケでついてきた小さい山の土地も耕してこれからはセカンドライフ、自給自足生活だー!なんて思っていた矢先だった。

まぁ最寄りのコンビニまで自転車で20分近く、スーパーに至っては車で40分近くなどお世辞にも良い立地とは言えないが人付き合いがそこまで得意ではない俺にとってはありがたかった。

田舎の方があれこれ詮索されると聞いていたが、古民家の元々の所有者が地元の顔役のような方で建て直したりなんだりとしてるのを見せている間に感心されて仲良くなり、面倒な事なども引き受けてくれたのは運が良かったのかもしれない。


『然り。世界との繋がりが希薄故に汝の存在を此処に呼び寄せる事が可能だった』


「まぁ、親も居ないし知り合いもほぼ居ないしな。そう言うと悲しいが.....」


人生の回想をしていると少し落ち着いてきた、逆にこちらから質問を投げかけてみる。


「それで召喚とか言ってたけど何をしろって言うんだ?異世界で勇者にでもなって魔王を倒せ、とか?」


異世界転生のテンプレといえばそういうのだよな、そこまで詳しい訳じゃないがそう言った題材の漫画や小説を読んだことはある。


『否、汝には』


そして自称神という存在から告げられた言葉に俺はーーー。


『ーーー魔王と成ってもらう』


「......は?」


驚きのあまり腑抜けた返事をしてしまった。

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