軽傷記事
表SNS
【死亡記録@訃報】
『今日は記事ではなくちょっとしたご報告。運命って突然来るんですね。まるで生と死を天秤にかけたような。神様は意地悪だ。死ぬべき人間を生かしたんだから。その人、軽傷の火傷で済んだようで、スマホが破裂とは嫌ですね』
目の前が騒がしい。救急車、警察沙汰。野次馬が集まり、上川達の姿さえ見えないが離れたとしても代わりはない。ミスったがやるべきことはやった。
人ごみに紛れ、様子を伺いつつもその場を離れる。スマホを耳当て電話しているように見せ掛けては後ろを追いかけてくる人が去るのを待つ。だが、消えない。
――誰だ。
信号で立ち止まり、触れるほどの近さに不快に思い振り向くと「あっ」と可愛らしい声。上川が死ぬほど大好きな小春だった。
「おや、花園小春さん。俺のストーカーですか?」
肩を叩こうとしていたのだろう。伸びた彼女の手を優しく触れ、「奇遇ですね」と笑いかける。すると、顔を赤くし手を振り払っては背け、チラッと俺を見ると愛しそうな目。
「上川くんが貴女と食事に行きたいと言ってましたよ。誘ってあげたらどうです? お休みだと思うので」
軽い嘘をつき、信号が青に変わった瞬間歩き出すと小さな手が俺を止めた。
「か、上川さんじゃなくて……住所さんがいいです。あの、良かったらご飯……た、食べませんか?」
リンゴのように顔を真っ赤にして言う。
「私、住所さんのことが――」
――あれ、本当だったんだ。
予期せぬ言葉に目を丸くし、車のクラクションで目を覚ます。言葉が見付からず、周囲に目を向けたとき見えたレストランの看板。とりあえずそこへ向かった。
昼過ぎのファミリーレストラン。休日よりは少ないがそれなりに客はいる。窓際の二人席に腰掛け、お互い無言のままメニューを開く。恥ずかしそうに顔を見せない彼女に「決まったら教えくださいね」と声をかけるとピンポーンと呼びベル。テンパってるのか知らないが俺がまだ決まってない。
【死亡記事@訃報】
『神っちさん、会社の人と会っちゃったんでご飯食べて話してから帰ります。なので、
名は出さぬようさりげなく送り、数秒後返事がする。
【神っち@アポたんしゅき】
『会社やプライベートの話はSNSヤバイから、スマホアプリ〈
そう言われ、メールよりも楽で複数人に遅れグループも作れるコミュニケーションツール。使うのは会社関係でそれ以外は使ったことがない。
【住所】
『後輩と鉢合わせしたのでホテルで会いましょう』
【上川 日和】
『誰?』
【住所】
『誰でもいいでしょう?』
【上川 日和】
『まさか、小春ちゃんΣ(゚∀゚ノ)ノ
ちょ、待てww何処よ。
イクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイク』
あまりのしつこさにスマホをテーブルに投げると小春が首を傾げる。俺が不機嫌な顔をしてたか、席を立ち水やお手拭きと何もいってないのに置き、静かに俯く。
「すみません。住所さんフリーですもんね。お忙しいのに……」
「いや、束縛解けたんで良かったです」
――束縛。
上川のしつこさをそう例える。すると、少し彼女の目が輝く。
「もしかして、上川さんですか」
口を湿らすよう水を含むも吹き出しそうになる。
「よくご存じで」
「上川さん、住所さんにだけワンワンしてるので。仲いいんだなって女性友達の間で盛り上がってるんですよ」
――ワンワン。
首を傾げる。
「えっと……子犬っぽいのかな」
――これは、ベーコンレタスの話か。
「小春さん」
俺は静かに口を開くと咳払いしながら言う。
「俺と彼でカップリングするのはいいですが、あまりそれを上川くんに言うと食い千切られますよ。彼、貴女のこと【好き】なんで」
「えっ……」
楽しげな雰囲気が冷める。無意識で無責任な発言に俺も驚き黙ることしか出来なかった。
――最低だ。料理が届いた後、帰り際に言えばいいのに。何故、今――。
周囲は煩い。だが、俺と彼女の空間は静寂に包まれる。コップを軽く振り、カランカランッと氷が音を発て、それに助けを求めるよう何度も繰り返す。気まずくなり、悲しげで泣きそうな彼女に微かに【喜びを得る】もこの場には居たくない。
「すみません。俺、帰りますね」
席を立ち、歩き出すとすれ違い様に上川の姿。俺は無視しするも泣かせたのを怒っているのか今まで見たことない殺気満ちた目で睨まれる。
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